まず決めるのは、実行予算の粒度です
最初に決めるのは、実行予算をどの単位で持つかです。工種別か、原価科目別か、あるいは両方の掛け合わせかを決めます。この粒度が決まらないと、実績をどこから集めるかも決まりません。
工種別か原価科目別か、どちらで持つかを決める
粒度の選び方は、差異を見て何を直したいかで変わります。
| 粒度 | 分かること | 入力の手間 |
|---|---|---|
| 工種別 (基礎、躯体、内装等) | どの工種で予算を超えたか | 実績を工種に割り当てる必要があります |
| 原価科目別 (労務費、材料費、外注費、経費) | どの費目で超えたか | 伝票の費目をそのまま使えます |
| 工種別と原価科目別の掛け合わせ | 工種のどの費目で超えたか | 両方の割り当てが必要です |
掛け合わせが最も細かく見えますが、現場に入力の負担が寄ります。まずは原価科目別で始め、工種別は主要な工種に限る形も選べます。
見積の内訳をそのまま使えるか確かめる
実行予算は、見積の内訳を元に組むことが多いです。ここで建設業法の定めが手がかりになります。
建設業法第20条第1項は、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費、材料費等その他施工のために必要な経費の内訳と、工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した見積書を作成するよう努めなければならないと定めています (出典: e-Gov法令検索「建設業法」)。
見積の粒度が「工事の種別ごとの内訳」として法令に示されているため、見積の明細をそのまま実行予算の単位に写せる構造にしておくと、後の打ち直しがなくなります。既存の見積書がこの粒度で作られているかを先に確かめてください。
所要時間の目安とつまずきやすい点
粒度を決める作業は、過去の工事2件から3件の見積書と実績の資料を並べて行います。半日から1日を見ておけば足ります。
つまずきやすいのは、経費の扱いです。現場共通でかかる経費を工種に割り当てようとすると、割り当ての規則を決める議論が長くなります。最初は共通の費目として別に持ち、工種へは配賦しない形から始めると止まりません。配賦の決め方は後述します。
なお、見積の作成手段そのものが表計算ソフト中心という実態もあります。建設業で見積・契約・請求業務を担当する300人を対象に2026年8月3日から4日に実施された調査では、見積作成手段はExcel・スプレッドシートが42.3%、建設業向けシステムが18.7%、紙・手書きが7.7%でした (出典: 現場TECH「建設業バックオフィスDX実態調査・第一弾」)。既存の見積が表計算ソフトであることを前提に、移行の手順を決める必要があります。
実績原価を、どこから集めるかを4つに分けて決める
実績は労務費、材料費、外注費、経費の4つに分けます。それぞれについて、どの書類から、いつ数字が入るのかを決めます。
労務費は日報の出面から
自社の職人の労務費は、日報の出面 (誰が何日入ったか) に単価を掛けて出します。要件として決めることは次の3点です。
- 出面を工事と工種のどこまで紐づけて入力するか
- 単価を誰がいつ登録するか (人別か職種別か)
- 日報が未提出の日をどう扱うか
つまずきやすいのは3です。日報が数日遅れると、その分だけ実績が小さく見え、差異が実際より良く出ます。未提出の日を一覧で出せるようにしておくと、数字の読み違いを防げます。日報そのものの要件は別の記事で扱います。
材料費は納品書または請求書から
材料費は、納品書を入力する方式と、請求書を受け取ってから入力する方式があります。
| 入力元 | 入るタイミング | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 納品書 | 現場に入った時点 | 差異を早く見たい場合 |
| 請求書 | 月末締めの後 | 入力の手間を抑えたい場合 |
差異を早く見たいのであれば納品書です。ただし現場で納品書を入力する手間が増えます。所要は1件あたり数分でも、件数が多い現場では積み上がります。どちらにするかは現場ごとに変えられる設計にしておくと運用が続きます。
外注費は注文書と出来高から
外注費は、注文書の金額を予算側に置き、出来高の査定で実績を積みます。決めることは、出来高をどの単位 (月次、工程の節目) で査定するか、査定した金額を誰が入力するかです。
つまずきやすいのは、注文書を出さずに口頭で頼んだ作業です。この分は実績の入力時に初めて現れ、差異が急に悪化します。注文書のない発注を検出できるよう、実績の入力時に注文書との紐づけを必須にするかどうかを決めてください。
経費の扱いと配賦の決め方
現場共通でかかる経費 (仮設、運搬、安全管理等) は、工種に割り当てずに共通の費目として持つのが始めやすい形です。
配賦をするのであれば、規則を1つに絞ります。工事金額の比率で配る、労務の人日で配る、のどちらかです。規則を複数持つと、月次で数字が合わなくなったときに原因を追えません。
差異をいつ見るかを決める
差異を見る頻度を、月次ではなく週次または日次のどこに置くかを先に決めます。この頻度が、入力の締めの設計を左右します。
締めのタイミングと入力の遅れをどう扱うか
頻度を上げるほど、入力の遅れが数字に効いてきます。
| 頻度 | 必要な入力の速さ | 向いている工事 |
|---|---|---|
| 月次 | 月末締めで間に合う | 工期が長く、月内の変動が小さい工事 |
| 週次 | 週明けまでに前週分が入る | 工期が数か月で、手を打てば間に合う工事 |
| 日次 | 当日または翌日に入る | 短工期で、変動が大きい工事 |
週次にするのであれば、週明けの時点で前週分がどれだけ入っているかを示す画面が必要です。入力率が分からないまま差異を見ると、入力が遅れているだけの工事を「予算内」と誤読します。
所要時間の目安として、締めの運用を決める打ち合わせは1回2時間程度です。つまずきやすいのは、現場と事務で締めの認識がずれることです。誰がいつまでに何を入れるかを文字にしてください。
未請求の材料と外注をどう見込むか
請求書が届く前の材料と外注をどう扱うかで、差異の見え方が変わります。選べる形は3つです。
- 発注または納品の時点で見込みとして計上する
- 請求が届いた時点で計上し、それまでは実績に含めない
- 見込みと確定を分けて両方を表示する
3が最も正確ですが、画面と入力の設計が増えます。1は早く見えますが、発注の取り消しや数量の変更を直す運用が必要です。どれを選ぶかは、差異を見る頻度と合わせて決めます。
実装の側で注意が必要なのは、見込みから確定への切り替えです。同じ費用が見込みと確定で二重に残ると、実績が膨らみます。確定の入力時に見込みを打ち消す仕組みを要件に入れてください。
差異が出たときに誰が見て誰が動くか
差異を見る仕組みは、見るだけでは効きません。発注の前に次を決めておきます。
- どの閾値を超えたら知らせるか (金額か、率か)
- 誰に知らせるか (現場責任者、工務、経営)
- 知らせを受けた人が何をするか (原因の確認、設計変更の相談、追加請求の検討)
閾値は、最初は1つに絞るのが続けやすい形です。工事ごとに閾値を変えられるようにすると、設定の管理が負担になります。
見積と契約、請求の法定要件を要件に織り込む
実行予算の元になる見積と契約には、建設業法が定める記載事項があります。システムの項目は、これを満たす形で設計します。
請負契約の書面記載事項と電磁的措置の条件
建設業法第19条第1項は、請負契約の当事者は契約の締結に際して同項が掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならないと定めています。列挙されている事項は第1号から第16号までの16項目です。工事内容、請負代金の額、工事着手の時期及び工事完成の時期、前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときはその支払の時期及び方法などが含まれます (出典: e-Gov法令検索「建設業法」第19条第1項)。
同条第2項により、これらの事項を変更するときも、変更の内容を書面にして相互に交付することになります。追加変更のたびに版が増えるため、システムでは契約の版を履歴として持たせる必要があります。実行予算の変更も、この版と対応づけておくと後から追えます。
電子に置き換えることもできます。同条第3項は、前二項の措置に代えて、政令で定めるところにより契約の相手方の承諾を得て、国土交通省令で定める情報通信の技術を利用する方法を講ずることができると定めています。相手方の承諾と、省令で定める方法であることが条件です (出典: 同法第19条第3項)。
見積書の内訳と見積期間の法定要件
見積の内訳については前のセクションで触れました。ここでは期間の定めを押さえます。
建設業法施行令第5条の9は、見積期間を次のように定めています。
| 工事一件の予定価格 | 見積期間 |
|---|---|
| 500万円に満たない工事 | 1日以上 |
| 500万円以上5000万円に満たない工事 | 10日以上 |
| 5000万円以上の工事 | 15日以上 |
ただし書きにより、やむを得ない事情があるときは、第2号と第3号の期間を5日以内に限り短縮できます (出典: e-Gov法令検索「建設業法施行令」第5条の9)。
下請に見積を依頼する機能を作る場合、この期間を満たしているかを画面で確かめられるようにしておくと安全です。依頼日と回答期限を記録し、予定価格の区分に応じた期間を下回る場合に警告を出す、という要件になります。
電子取引データの保存義務との関係
見積書や契約書、請求書を電子でやり取りする設計にする場合は、保存の要件も要件定義に含めます。
国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトは、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法が電子帳簿保存法により定められていると説明しています (出典: 国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。
検索機能については、売上高による基準があります。国税庁の資料では、検索機能が不要とされる対象者の売上高の基準が、改正前の1000万円以下から5000万円以下に変わり、2024年1月1日以後にやり取りする分に適用されるとされています。令和4年度税制改正の宥恕措置は2023年12月31日が適用期限でした (出典: 国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」令和5年4月)。
自社がどちらに当たるかで、検索の要件が変わります。要件定義の前に確かめてください。