AI-OCRの外注で、要件書に最初に書くことは?
読み取りの水準は2種類に分けて書きます。法令で決まっている保存のための水準と、自社で決める項目単位の正答率です。この2つを混ぜて1つの精度として発注すると、検収の段になって何を合格とするかで揉めます。
注文書の読み取りを外注する前提として、取引の入口が紙とFAXのまま残っている状況があります。中小企業庁「中小企業のデジタル化に向けて」(令和2年7月) は、企業間取引の電子化が進まず、7割程度の中小企業が電話・FAX・電子メールでの受発注取引を継続しているとし、EDIの導入率は2割程度としています。取引先が紙のままである限り、読み取りの工程は自社に残ります。
法令で決まっている水準と、自社で決める水準の違い
受け取った注文書を国税関係書類としてスキャナ保存する場合、画像の仕様には決まった下限があります。国税庁「電子帳簿保存法 スキャナ保存」のパンフレットは、要件として解像度200dpi相当以上 (A4サイズで約387万画素相当) による読み取りができることを挙げ、階調は赤・緑・青それぞれ256階調 (24ビット) での読み取りを原則としています。
一方で、品番や数量を何パーセント正しく読めれば合格かという水準は、法令にはありません。自社の注文書を使って自社で測り、自社で決めることになります。2つの水準の性質は次のように分かれます。
| 水準 | 決める主体 | 外注の扱い |
|---|---|---|
| 画像の仕様 (解像度、階調、画素数) | 法令で下限が決まっている | 満たすことを前提条件として明記する |
| 項目単位の正答率 (品番、数量、納期等) | 御社が決める | 測り方と合格ラインを要件書に書く |
要件書に書く2つの水準の関係
書く順序は、画像の仕様が先、正答率が後です。画像の仕様は交渉の対象ではなく満たすべき前提であり、ここを外すと読み取りの精度が良くても保存の要件を満たしません。
実装の面では、精度を上げたい一心で画像を圧縮したり白黒2値に落とす設定にしてしまう例が、つまずきやすい箇所です。文字の輪郭がはっきりして読み取りの数値は上がる場合がありますが、階調の要件から外れます。読み取り用の画像と保存用の画像を分けて持つ設計にするか、保存要件を満たす設定のまま精度を測るかを、発注時に決めておきます。
画像の仕様の詳細は次のセクションで、正答率の決め方はその後のセクションで扱います。
保存のための読み取り水準は、どこまで法令で決まっている?
注文書を国税関係書類としてスキャナ保存する場合、解像度200dpi相当以上、赤・緑・青それぞれ256階調以上、4ポイントの文字を認識できることが要件です。いずれも電子帳簿保存法施行規則第2条第6項に根拠があり、交渉で下げられる水準ではありません。
解像度と階調の下限
国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」(令和4年6月) は、同規則第2条第6項第2号イにもとづき、スキャニング時の解像度を25.4ミリメートル当たり200ドット以上とし、赤色・緑色・青色の階調をそれぞれ256階調以上で読み取ることを挙げています。同規則第2条第7項に規定する一般書類については、白色から黒色までの階調が256階調以上、いわゆるグレースケールでも可とされています。
注文書がこの一般書類に当たるかどうかは書類の性質で変わるため、迷う場合は256階調のまま運用する方が安全です。
スマートフォンで撮る場合の画素数
複合機を使わず、現場でスマートフォンで撮る運用にする場合は、解像度ではなく画素数で判断します。同一問一答の問26は、A4サイズについて次のように計算しています。
| 項目 | 計算 | 必要な値 |
|---|---|---|
| 縦 | 11.69インチ×200ドット | 2,338画素 |
| 横 | 8.27インチ×200ドット | 1,654画素 |
| 総画素数 | 2,338画素×1,654画素 | 約387万画素以上 (3,867,052画素) |
A4より小さい書類を画面最大で保存する場合も、縦2,338画素と横1,654画素をそれぞれ満たす必要があるとされています。総画素数だけを満たしていても、縦横のいずれかが足りなければ要件から外れる点に注意してください。
4ポイントの文字を認識できることの意味
同規則第2条第6項第5号ニには「4ポイントの大きさの文字を認識することができること」と定められています。これはAIの読み取り精度の話ではなく、画像の上でその大きさの文字が判読できるかという意味です。
この判定は厳しく運用されます。同一問一答の問41は、JIS X6933に準拠したテストチャートについて、JISの目視試験では各ポイントごとに34文字中18文字以上が認識できれば合格とされる一方、国税関係書類のスキャナ保存では4ポイントの文字およびISO図形言語が100パーセント認識できる設定で入力しなければならないと述べています。
テストチャートが手元にない場合の扱いも示されています。問40によれば、読取解像度200dpi以上かつ赤・緑・青それぞれ256階調以上かつ非圧縮または可逆圧縮で入力していれば、4ポイントの大きさの文字が認識できるものとして取り扱われます。実務上は、この3条件を要件書にそのまま書くのが最も確実です。
なお以上は令和4年6月版の記載であり、その後の改正で解像度・階調・書類の大きさに関する情報そのものを保存する要件は廃止されています。読み取り時に満たすべき水準と、保存すべき情報は別の論点です。発注時には最新版の一問一答で該当箇所を確認してください。
項目単位の正答率は、何パーセントを合格ラインにする?
公的な基準値はありません。合格ラインは項目ごとに分け、段階的に決めていく方式が公的なガイドラインの考え方です。正解率を何パーセントとするといった水準を定めた公的な基準は、調べた範囲では確認できませんでした。
品番、数量、納期で合格ラインを分ける理由
1つの正答率でまとめると、誤りの重さの違いが消えます。品番を1文字読み違えれば別の製品が出ていきますが、備考欄の読み落ちは出荷に影響しません。項目ごとに扱いを分けて要件書に書きます。
| 項目 | 誤読の影響 | 要件の書き方の例 |
|---|---|---|
| 品番、数量 | 誤出荷、欠品に直結する | 読み取り結果を確定前に必ず人が通す対象とする |
| 納期、希望日 | 納期遅れの連絡が発生する | 合格ラインを定めたうえで差異の一覧を出させる |
| 備考、担当者名 | 業務の進行に影響しにくい | 読み取れなければ空欄のまま確定できるようにする |
探索的段階型で決めるという考え方
経済産業省は「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定しており、そのAI編 (平成30年6月) は、契約の時点で成果の内容や性能が確定しにくいというAI技術の特性を踏まえ、アセスメント段階、PoC段階、開発段階、追加学習段階の4段階に分けて進める探索的段階型の開発方式と、各段階の契約方式や条項例を示しています。発注側から見ると、最初の契約で最終的な精度を約束させる形にしないことが前提に置かれています。
これは精度を決めないという話ではありません。PoC段階で御社の注文書を使って実測し、その数値を見てから開発段階の合格ラインを確定する、という順序にするという意味です。同省は契約時に確認する事項を整理した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」も公開しています。
品質を何の軸で見るかは、AIプロダクト品質保証コンソーシアム (QA4AI、2018年4月1日設立) のガイドラインが参考になります。同ガイドラインは、品質保証を構築し評価する際の軸として Data Integrity (データの整合性)、Model Robustness (モデルの頑健性)、System Quality (システムの品質)、Process Agility (プロセスの機敏性)、Customer Expectation (顧客の期待) の5つを挙げています。最新版の2025.04版は2025年4月10日に公開されました。読み取りの数値だけでなく、学習データの整合性や運用時のシステムの品質まで含めて合格を判断する枠組みです。
品質項目の一覧としては、産業技術総合研究所「機械学習品質マネジメントガイドライン」第4版 (2023年12月12日公開) も使えます。
評価用のデータを誰が用意するか
ここが要件書で抜けやすい箇所です。評価に使う注文書を御社が何件出すのか、取引先ごとの書式を何種類含めるのかを決めないまま発注すると、発注先が選んだ読みやすい見本で測った数値が出てきます。
実装の面では、評価用のデータを発注先の学習にも使ってしまうと、評価の数値が実態より高く出ます。学習に使う分と評価に使う分を分けることを、要件書に1行入れておいてください。
人の確認は、どの工程に残す?
誤読が出荷や請求に出る前の1箇所に集約します。読み取った内容を確定する画面で、金額と数量と品番だけを目視で通す形が現実的です。確認の工程を複数に散らすと、どこで見たのかが曖昧になり、結局どこも見なくなります。
全件確認と抜き取り確認の境目
境目は、誤読がそのまま外に出るかどうかです。後工程に人の判断が必ず入る項目は抜き取りでかまいませんが、読み取った値がそのまま伝票や出荷指示になる項目は全件通します。
- 読み取り結果が自動で後工程に流れる項目を洗い出す (所要時間の目安: 半日)
- そのうち、御社の外に出る項目 (品番、数量、金額、納期) を全件確認の対象にする
- 残りの項目は、読み取りの確信度が低いものだけ画面上で色を変えて示す
- 1週間ごとに、人が直した件数と項目を集計する (つまずきやすい点: 集計の仕組みを後から足すのは手間がかかるため、最初から要件に入れます)
確信度での振り分けを使う場合は、しきい値を発注先に任せないでください。しきい値を上げれば人の確認が増え、下げれば誤りが通ります。どちらに寄せるかは業務の判断であり、御社が決める事項です。
検索の要件が人の入力を前提にしている箇所
見落としやすいのが、保存した注文書を後から探せるようにする要件です。国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」(令和4年6月) の問43は、検索機能の要件として次の3点を挙げています。
- 取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を検索の条件として設定できること
- 日付または金額は、範囲を指定して条件を設定できること
- 2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること
そのうえで同問は、スキャナで読み取った画像データをテキスト化して保存する機能が備わっていない場合であっても、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先を手入力するなどして検索の条件として設定できるようにする必要があるとしています。つまり、読み取りが効かない書式が混ざっていても、この3項目は人が入れてでも埋めることが前提になっています。
要件書では、この3項目を「読み取りに失敗しても空欄で確定させない項目」として明示しておきます。読み取れなかったときに人の入力画面へ回す動線がないと、後から探せない注文書が溜まります。
なお同問は、税務職員による質問検査権に基づくデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は、範囲指定と項目の組み合わせの機能の確保は不要としています。機能を作るか運用で代えるかの判断材料になるため、発注前に経理の担当者と確認しておいてください。