何から始める? 最初に決めるのは「残す記録」の範囲
最初に決めるのは、法令で保存が義務づけられている記録を、どこまで新しいシステムに持たせるかの範囲です。この範囲が決まらないまま見積もりを取ると、機能の過不足が後から出てきます。
配車と運行日報のシステム化は、画面の使いやすさから考えたくなります。ただ、運送業では残すべき記録が法令で決まっています。先にそこを固めるほうが、手戻りが少なくて済みます。
法定記録を先に決める理由
法定記録は、要件の「下限」だからです。削れない項目が先に確定すれば、あとは自社の運用に合わせて足すだけになります。
たとえば荷待時間の記録です。国土交通省は貨物自動車運送事業輸送安全規則を改正し、荷待時間や荷役作業・附帯業務の業務記録への記録義務の対象を全車両に拡大しました。施行日は2025年4月1日です。改正前は最大積載量5トン以上などの車両が対象でしたので、対象車両が大きく広がりました(出典: 国土交通省「令和7年4月1日から、全車両が記載対象になります」、基準日2025年4月1日)。
記録の対象になるのは、荷主都合による30分以上の待機です(出典: 国土交通省「乗務記録の記載対象となる荷待時間・荷役作業等について」)。待機の開始と終了を打刻できる画面が要るのか、事後に手入力するのかは、この時点で決めておく論点です。
既存の運行記録計・点呼記録との線引き
すでに手元にある記録と、新しく作る記録を重ねない線引きが要ります。二重入力の温床になるためです。
運送業で扱う主な記録と保存期間は次のとおりです。
| 記録の種類 | 主な内容 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 運行記録計の記録 | 瞬間速度、運行距離、運行時間 | 1年 |
| 点呼記録簿 | 点呼の実施内容 | 1年 |
| 業務記録(荷待時間等) | 荷主都合30分以上の待機、荷役作業、附帯業務 | 貨物自動車運送事業輸送安全規則による |
出典: 全日本トラック協会「運行記録計(タコグラフ)の装着義務付け対象拡大について」、国土交通省「貨物軽自動車運送事業者の皆様へ(点呼記録簿の例)」。
運行記録計のデータは機器側に残ります。新しいシステムに同じ速度や距離を手入力させる設計にすると、現場の負担だけが増えます。当社が実装する場合も、機器から取り出せるものは取り込み、取り出せないものだけを入力対象にします。
なお、貸切バス事業ではデジタル式運行記録計による電子データの3年間保存が義務づけられており、保存期間が異なります。他業態向けの資料をそのまま当てはめないようご注意ください。
御社の事業者規模も前提になります。中小企業基本法の基準に照らすと、トラック運送事業者の99%以上が中小企業にあたり、従業員10名以下の事業者が49%を占めます(出典: 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2024」)。専任の情報システム担当者を置きにくい規模ですので、運用を誰が回すかまで含めて範囲を決める必要があります。
法令上求められる記録の中身は、次のセクションで整理します。
配車と運行日報で法令上求められる記録は?
荷待時間と荷役作業等の業務記録、運行記録計のデータ、点呼記録の3つが柱になります。この3つを押さえれば、要件の下限は固まります。
前のセクションで触れたとおり、法定記録は削れません。順に中身を見ていきます。
2025年4月から全車両が記録対象に
業務記録の対象車両が広がりました。国土交通省は貨物自動車運送事業輸送安全規則を改正しています。施行日は2025年4月1日です。
改正前の対象は、車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の車両でした。改正後は全車両が対象になります。小型車だけで運んでいる事業者も対象です。
出典: 国土交通省「令和7年4月1日から、全車両が記載対象になります」(基準日2025年4月1日)
システムの観点では、車両マスタに「対象か否か」の区分を持たせる設計が不要になります。全車両が対象だからです。既存のExcel台帳に区分の列が残っている場合は、移行時に整理します。
荷主都合30分以上の待機と荷主確認の有無
記録の対象は、荷主都合による30分以上の待機です。あわせて、記録した内容について荷主の確認を受けたかどうかも記載します。
出典: 国土交通省「乗務記録の記載対象となる荷待時間・荷役作業等について」
ここは設計で迷いやすい箇所です。「荷主の確認を受けたか」は、はい・いいえの区分として持つ必要があります。待機時間そのものとは別の項目です。紙の様式では欄外の押印で済ませていることが多く、移行時に項目として落ちがちです。
待機時間の持ち方も決めます。選択肢は次の2つです。
- 開始と終了を現場で打刻する。所要時間は1回あたり数秒です。ただし電波の届かない場所での挙動を決めておく必要があります。
- 帰庫後にまとめて入力する。入力の手間は集約できます。ただし時刻の精度は本人の記憶に依存します。
なお、荷待ちは短くなってきています。国土交通省の2025年度調査では、1運行当たりの荷待ち・荷役等時間は平均2時間2分でした。前回調査の3時間18分から1時間16分の短縮です。
出典: 国土交通省2025年度調査(Hacobuの解説記事より)
同じ調査では、認識の差も示されています。荷待ちが発生していると認識する割合は、運送事業者側が73.4%です。一方、発荷主側は24.0%、着荷主側は20.6%にとどまります。自社側で記録が残っていれば、この差を数字で示せます。
保存期間は原則1年
保存期間は記録の種類ごとに決まっています。主なものは次のとおりです。
| 記録 | 保存期間 | 出典 |
|---|---|---|
| 運行記録計の記録 | 1年 | 全日本トラック協会「運行記録計(タコグラフ)の装着義務付け対象拡大について」 |
| 点呼記録簿 | 1年 | 国土交通省「貨物軽自動車運送事業者の皆様へ(点呼記録簿の例)」 |
| デジタル式運行記録計の電子データ(貸切バス事業) | 3年 | 同上(業態が異なるため参考) |
発注時には、保存期間そのものより「保存期間を過ぎたデータをどう扱うか」を決めておきます。自動で削除するのか、参照だけ残すのかで、設計が変わるためです。監査や荷主からの問い合わせに備えて、当社では過去3年分を参照できる形にする提案が多くなります。
改善基準告示の拘束時間は、日報の設計にどう効く?
1日と1年の拘束時間の上限を日々判定できる形でデータを持てるかが、日報の設計を左右します。上限に近づいていることが月末に分かっても、打てる手はほとんど残りません。
改善基準告示とは、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準です。厚生労働大臣が告示しています。2024年4月1日から改正後の基準が適用されています。
1日の拘束時間の上限
1日の拘束時間は原則13時間を超えないこととされています。延長する場合も最大15時間までです。
出典: 国土交通省 近畿運輸局「トラック運転者の改善基準告示 ー2024年4月適用ー 解説」
日報の設計では、拘束時間の起点と終点を決めます。出庫と帰庫の時刻だけでは足りません。点呼の開始時刻や、荷待ちの待機時間の扱いが絡むためです。ここを曖昧にしたまま開発に入ると、計算結果が実態と合わず、結局Excelで検算することになります。
1年の拘束時間の上限
1年の拘束時間は原則3,300時間以内です。改正前は3,516時間でしたので、216時間短くなりました。
出典: 国土交通省 近畿運輸局「トラック運転者の改善基準告示 ー2024年4月適用ー 解説」
年単位の上限は、日々の積み上げでしか管理できません。日報のデータが乗務員ごと、月ごとに集計できる形になっているかを確認します。紙の日報を月末にまとめて入力する運用では、残り時間が見えるのが翌月になります。
判定を人の計算に任せない設計
判定は、システム側で自動的に行う設計をおすすめします。運行管理者が手作業で計算していると、担当者が休んだ日に止まるためです。
具体的には、次の3点を要件に書きます。
- 乗務員ごとの当月累計と当年累計を、日報の登録と同時に更新する。つまずきやすい点は、日をまたぐ運行の帰属月の決め方です。事前に決めておきます。
- 上限に対する残り時間を一覧で表示する。所要時間の目安は、画面を開いてから数秒です。
- 上限を超える見込みになった乗務員を抽出できるようにする。抽出の条件は自社の運用に合わせて調整します。
実装者としてお伝えすると、この種の集計は後から足すと高くつきます。日報のデータ構造が集計を前提にしていないと、作り直しになるためです。発注の段階で「拘束時間の判定に使う」と明記してください。
なお、御社の規模も設計に影響します。トラック運送事業者の99%以上が中小企業にあたり、従業員10名以下の事業者が49%を占めます。
出典: 全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2024」
運行管理者が他の業務を兼ねている事業者が多い規模です。判定を人の手に残さない設計は、この前提から出てきます。
外注前に決める要件7項目
記録項目、入力する人と場所、既存機器との連携、保存期間、権限、出力様式、移行対象の7項目を先に決めます。この7項目が埋まっていれば、見積もりの精度が上がります。
7項目は、当社が運送業の案件で実際に最初の打ち合わせで確認している順番です。
機能要件の7項目
上から順に決めていきます。前の項目が決まらないと次が決められない並びです。
- 記録項目を確定する。所要時間の目安は2時間から3時間です。前のセクションで整理した法定記録に、自社で必要な項目を足します。荷主の確認を受けたかどうかの区分を忘れないようご注意ください。
- 入力する人と場所を決める。つまずきやすい点は、乗務員が入力するのか、事務所が入力するのかです。乗務員が入力する場合は、電波の届かない場所での保存方法を決めます。
- 既存機器との連携範囲を決める。運行記録計から取り出せるデータは取り込み、手入力させない方針にします。機器の型式と、取り出せるファイル形式を事前に調べておきます。
- 保存期間と、期間経過後の扱いを決める。自動削除か、参照のみ残すかを選びます。所要時間の目安は30分です。
- 権限を決める。乗務員、運行管理者、経理で見える範囲が変わります。つまずきやすい点は、他の乗務員の日報を見せるかどうかです。
- 出力様式を決める。監査や荷主への提出で使う様式を、現物で用意します。画面だけ作って出力を後回しにすると、運用開始後に紙に戻ります。
- 移行対象を決める。過去何年分のデータを移すかを決めます。紙の日報を遡って入力するのは現実的ではないため、移行の起点日を決める形が多くなります。
つまずきやすい点
実装者としてお伝えすると、3番の機器連携が最も読みにくい項目です。
運行記録計は、型式によって取り出せるデータの形式が異なります。メーカが提供するソフトウェア経由でしか出せない場合もあります。見積もりの前に、手元の機器で実際にファイルを書き出してみてください。所要時間は1時間ほどです。この確認をしておくと、連携が可能かどうかを前提にした見積もりが取れます。
もう1点は、6番の出力様式です。荷主ごとに求められる様式が違う事業者では、出力の作り込みが工数の大半を占めることがあります。様式の数を数えて、発注先に伝えてください。
7項目を整理する際は、次の表のように書き出すと発注先と共有しやすくなります。
| 項目 | 決めること | 決められない場合の扱い |
|---|---|---|
| 記録項目 | 法定記録と自社項目の一覧 | 法定記録のみで見積もる |
| 入力者と場所 | 乗務員か事務所か、車内か帰庫後か | 両方に対応する前提で見積もる |
| 機器連携 | 運行記録計の型式と出力形式 | 連携なしで見積もる |
| 保存と削除 | 保存年数と期間経過後の扱い | 削除せず参照のみ残す |
| 権限 | 役割ごとの閲覧範囲 | 役割3種類で見積もる |
| 出力様式 | 必要な様式の現物と点数 | 様式1点で見積もる |
| 移行対象 | 移行の起点日と対象データ | 移行なしで見積もる |
右の列を埋めておくと、決めきれない項目があっても見積もりを止めずに進められます。