まず決めるのは「取引先ごとの受付方法をどこまで自社で吸収するか」です
最初に決めるのは方針です。取引先に運用を変えてもらうのか、届いた電話とFAXを自社側で受け止めて電子化するのか。この選択で、作るものがまったく変わります。
2つの方針と、それぞれで作るものが変わる理由
方針は次の2つに分かれます。
| 方針 | 取引先に求めること | 自社が作るもの |
|---|---|---|
| 取引先に移ってもらう | Webの注文フォームやEDIを使ってもらう | 発注側が使う注文画面と、受注データの取り込み |
| 自社側で吸収する | 何も変えなくてよい | 届いたFAXと電話の内容を電子化して取り込む仕組み |
取引先に移ってもらう方針は、実現すれば手入力が完全になくなります。ただし相手の協力が前提です。発注側に立場の強い取引先が多い場合、この方針だけで進めると途中で止まります。
自社側で吸収する方針は、相手の運用を変えません。そのぶん、FAXのPDFから項目を読み取る処理や、電話の内容を入力する画面が必要になります。手入力が完全になくなるわけではありませんが、打ち直しの回数は減らせます。
多くの中小企業では、この2つを併用することになります。移ってくれる取引先には注文フォームを使ってもらい、変わらない取引先は自社側で吸収する、という形です。
取引先の一覧を作って方針を割り当てる手順
- 取引先を注文の件数順に並べる (所要時間の目安: 60分)。上位の数社で全体の大半を占めることがほとんどです。効果はこの上位から出ます。
- 現在の受付方法を書き込む (所要時間の目安: 30分)。電話、FAX、メール、先方のWeb画面、というように実態を記録します。つまずきやすい点として、同じ取引先が複数の方法を使い分けている例があります。その場合は全部書き出してください。
- 上位の取引先から順に方針を割り当てる (所要時間の目安: 60分)。相談できる相手には移行を打診し、難しい相手は自社側で吸収する側へ回します。
- 割り当ての結果を集計する (所要時間の目安: 15分)。自社側で吸収する分が何割を占めるかで、作るものの重心が決まります。
この一覧は、後で外注先に渡す資料の中核になります。件数と受付方法が書かれた表があるだけで、提案の精度が変わります。次章では、電話とFAXが残っている状況が自社に固有のものではないことを、公表資料で確認します。
電話とFAXが残っているのは自社だけではありません
中小企業庁は「中小企業の受発注デジタル化」のページで、次のように整理しています。中小企業の受発注業務ではいまだに電話とFAXが主流であり、電子化している場合でも発注企業ごとに異なる複数のシステムへ対応しなければならない点が課題である、という内容です。
電子受発注の対応率と、そこから読み取れること
同ページに示された中小企業庁「令和3年度取引条件改善状況調査」(2021年) によれば、受注側で電子受発注に対応している割合は48.5%です。半数以上はまだ対応していないことになります。
この数字の読み方には注意が必要です。48.5%は「何らかの電子受発注に対応している」という割合であり、手入力がゼロになっている割合ではありません。先方のWeb画面で注文を確認し、それを自社の基幹システムへ打ち直している場合も、対応している側に含まれます。
つまり、電子化しているつもりの会社でも、打ち直しは残っている可能性があります。自社の現在地を測るときは、対応の有無ではなく入力の回数で見てください。
発注企業ごとに異なるシステムという構造的な問題
受発注の電子化が進みにくい理由は、自社の意思だけでは決まらない点にあります。発注側がそれぞれ別のシステムを使っていると、受注側は取引先の数だけ画面と手順を覚えることになります。
結果として、取引先が増えるほど負担が増える形になります。FAXのほうが速い、という現場の声が出てくるのはこのためです。電子化の設計では、取引先ごとの違いをどこで吸収するかが中心の論点になります。
共通EDIという選択肢の位置づけ
この問題に対して、中小企業庁は「中小企業共通EDI」を策定しています。中小企業庁の説明によれば、実証事業では受注側と発注側のいずれにも約50%程度の業務時間削減効果が確認されたとされています。
ただし、共通EDIは取引先も同じ仕組みに乗ることが前提です。相手が対応していなければ効果は出ません。まずは自社の取引先が対応できるかどうかを確認し、対応できない分をどう扱うかを別に考える、という順序になります。
なお、受発注をメールやWebへ移す場合は、電子帳簿保存法の保存要件も関わってきます。この点は後の章で扱います。
手入力が残る場所を、受注から請求まで洗い出します
電子化の効果は、同じ情報を何回打ち直しているかで決まります。まず受注・発注・出荷・請求の各段階で、入力が発生している箇所を数えてください。ここを飛ばすと、発注した後で「思ったより楽にならなかった」という結果になります。
中小企業庁「2021年版中小企業白書」第3節では、中小企業がITシステムを導入・外注する際の課題として、システムの仕様・要件をまとめる社内人材の不足が上位に挙げられています。洗い出しは、その不足を埋めるための最初の作業でもあります。
1件の注文が何回入力されているかを数える手順
- 直近の注文を1件選ぶ (所要時間の目安: 10分)。件数の多い取引先から、典型的な注文を選びます。
- その注文が通った画面と帳票を順に並べる (所要時間の目安: 60分)。受注メモ、受注入力、在庫引当、出荷指示、納品書、請求データ、という流れを実際の画面で追います。
- 各段階で誰が何を入力したかを書く (所要時間の目安: 30分)。同じ品番や数量を入力している箇所には印を付けます。
- 印の数を数える (所要時間の目安: 5分)。これが1件あたりの打ち直しの回数です。
多くの場合、3回から5回は出てきます。この数字は、外注先に効果を説明してもらうときの基準になります。
つまずきやすい点: 入力ではなく転記を見落とす
システムへの入力だけを数えると、実態より少なく出ます。見落としやすいのは次のような作業です。
- 受注内容をホワイトボードや紙のメモに書き写す
- 出荷の準備のために一覧を表計算ソフトへ貼り直す
- 月末に請求書と受注一覧を突き合わせて手で直す
これらも同じ情報の転記です。電子化の対象に含めるかどうかは別として、まず数えておいてください。数えていないものは、仕様にも入りません。
既存の基幹システムとの接点を確認する
洗い出しの最後に、既存の販売管理ソフトや基幹システムへ、どの形式でデータを渡せるかを確認します。確認するのは次の3点です。
- CSVなどのファイルで受注データを取り込む機能があるか
- 取り込みに使う項目名と桁数の仕様書が手元にあるか
- 取り込み後に修正できるか、取り込んだら確定してしまうか
IPAの「システム再構築を成功に導くユーザガイド」は、既存システムとの連携要件を発注前に文書化することを推奨しています。パッケージ側の公式な連携仕様を先に確認したうえで、カスタマイズの範囲を発注仕様書に明記する、という順序です。この3点が空欄のまま発注すると、結合の段階で手戻りが起きます。
外注前に仕様として言語化する6つの項目
発注前に決めるのは6つです。受付方法、項目の対応表、エラー時の扱い、既存システムへの渡し方、保存要件、移行の範囲。この6つが書かれていれば、提案の内容を比較できます。
6項目のそれぞれで決めること
| 項目 | 決めること | 決めないとどうなるか |
|---|---|---|
| 受付方法 | 注文フォーム、FAXの取り込み、メールのどれを使うか | 取引先ごとの対応が後から追加になる |
| 項目の対応表 | 取引先の呼び方と自社の項目名の対応 | 取り込んだデータが自社の品番と一致しない |
| エラー時の扱い | 読み取れない、在庫が足りない、単価が違う場合の動き | 例外のたびに人が止まり、電話に戻る |
| 既存システムへの渡し方 | ファイル形式、項目、渡すタイミング | 結合の段階で手戻りが起きる |
| 保存要件 | 受発注データをどの形で保存するか | 法令上の要件を満たせない (次章で扱います) |
| 移行の範囲 | 過去の注文履歴を移すか、当月分から始めるか | 移行の作業が見積もりに入っておらず追加になる |
取引先ごとの項目名の違いをどう吸収するか
最も手間がかかるのは項目の対応表です。同じ商品でも、取引先ごとに品番や呼び方が違います。単位も、ケースと本が混在します。
作り方の順序は次のとおりです。
- 取引先の注文書を1社1枚ずつ集める (所要時間の目安: 60分)。直近1か月分で足ります。
- 注文書に出てくる項目を書き出す (所要時間の目安: 取引先1社あたり20分)。品番、品名、数量、単位、納期、届け先、備考、という粒度です。
- 自社の項目名との対応を1行ずつ書く (所要時間の目安: 取引先1社あたり30分)。対応するものがない項目は、空欄のまま残します。
- 空欄になった項目の扱いを決める (所要時間の目安: 30分)。無視する、備考に入れる、新しく項目を作る、のいずれかです。
この表は、外注先が作るものではありません。自社の商品と取引を知っている人にしか作れないためです。ここを外注先に任せると、確認のやり取りが延々と続きます。
つまずきやすい点: 例外処理を決めずに発注する
仕様が固まらない原因の多くは、通常の流れではなく例外にあります。次の場面での動きを、発注前に文章で決めてください。
- FAXの文字が読み取れなかったとき、誰にどう知らせるか
- 注文された品番が自社に存在しないとき、受け付けるか止めるか
- 数量や納期が後から電話で変更されたとき、どこに記録するか
例外の扱いが決まっていないと、システムは動くのに運用が回らない、という状態になります。結果として電話とFAXに戻ってしまいます。3つとも紙に書けていれば、仕様としては十分です。