前の制作会社から何を引き継げばよいのか
引き継ぐものは6つに整理できます。ドメイン名、DNSの設定、サーバとCMSの管理権限、原稿と画像の原本、計測ツールの権限、制作物の権利です。この6つを一覧にしておけば、抜けに気づけます。
6つの区分と、抜けたときに起きること
| 区分 | 具体的に受け取るもの | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| ドメイン名 | 管理指定事業者の変更、登録者情報の確認 | 更新の通知が届かず、失効の危険がある |
| DNSの設定 | 現在のレコードの一覧 | 切り替え時にメールが届かなくなる |
| サーバとCMSの管理権限 | 管理画面のアカウント、FTPやSSHの情報 | 公開作業ができない |
| 原稿と画像の原本 | 編集可能な形式のファイル | 新しい制作会社が作り直し、費用が増える |
| 計測ツールの権限 | Search Console、アナリティクスの所有権 | 過去の検索データを参照できない |
| 制作物の権利 | 契約書の該当条項の確認 | デザインを改変して使えない可能性がある |
とくに見落とされやすいのがDNSの設定です。サイトの引っ越しにばかり目が向き、メールの設定が同じDNSにぶら下がっていることを忘れると、切り替えた日にメールが止まります。
着手の順番: 日数がかかるものから手を付ける
6つを同時に進める必要はありません。次の順序で着手してください。
- ドメイン名の状況を確認する (所要時間の目安: 確認は30分、手続きは数日)。登録者が誰になっているか、管理している事業者はどこかを調べます。相手の対応を待つため、最も早く動き出す必要があります。
- 契約書を探して権利の条項を確認する (所要時間の目安: 60分)。制作物の権利は、交渉が必要になる場合があります。早く気づくほど選択肢が残ります。
- 計測ツールの権限を確認する (所要時間の目安: 30分)。自社のアカウントで所有権を持てているかを見ます。
- 原稿と画像の原本を依頼する (所要時間の目安: 依頼は30分、受領まで1週間程度)。つまずきやすい点として、公開中のファイルを渡されて原本だと思ってしまうことがあります。
- サーバとCMSの権限を受け取る (所要時間の目安: 30分)。実際の切り替え直前でも間に合います。
順番を守る理由は単純で、1番と2番が相手の都合に左右されるからです。新しい制作会社との打ち合わせが始まってから動くと、公開の予定が押します。次章では、その中でも最も日数が読みにくいドメイン名の移管を扱います。
ドメイン名の移管は、どのくらい日数がかかるのか
JPRSの「ドメイン名の管理指定事業者の変更」によれば、手続きは開始から終了まで数日程度かかる場合があります。JPRSは、日程に余裕をもって手続きすることを案内しています。公開日から逆算して、最初に動かす項目です。
認証コードを使う手続きの流れ
JPドメイン名の管理指定事業者の変更は、認証コード (AuthCode) を使って行います。JPRSによれば、JPドメイン名での認証コードの利用は2022年11月13日から開始されています。
流れは次のとおりです。
- 登録者が変更元の指定事業者へ認証コードを確認する (所要時間の目安: 依頼は15分、回答待ちに数日)。ここが最も待たされる工程です。
- 変更元の指定事業者からJPRSへ認証コードの発行依頼が行われる (所要時間の目安: 事業者の対応次第)。自社では進められません。
- 登録者が認証コードの通知を受け取る (所要時間の目安: 通知を待つ)。
- 変更先の指定事業者へ認証コードを渡して手続きを進める (所要時間の目安: 30分)。具体的な方法は変更先の指定事業者に確認してください。
つまずきやすい点は、変更元へ連絡する窓口がわからないことです。まず年次の更新料を誰に払っているかを確認してください。請求元が、現在の管理事業者につながる手がかりになります。
指定事業者変更ロックの解除
ドメイン名に指定事業者変更ロックが設定されている場合、手続きの前にロックを解除する必要があります。ロックは不正な移管を防ぐための仕組みで、設定されていること自体は問題ではありません。
解除も変更元の指定事業者を通じて行います。ロックがかかっていることに気づくのが手続きの途中になると、そのぶん日数が延びます。認証コードを依頼するときに、ロックの状態もあわせて確認してください。
つまずきやすい点: 登録者情報が制作会社名のままになっている
移管の前に、登録者が誰になっているかを確認してください。制作時に制作会社が取得したドメイン名では、登録者が制作会社の名義のままになっていることがあります。
この場合、管理事業者を変えるだけでは自社の資産になりません。登録者の変更という別の手続きが必要です。手続きの内容は指定事業者によって異なるため、変更元と変更先の両方に確認してください。
次章では、同じく相手の協力が要る計測ツールの権限を扱います。
Search Consoleとアナリティクスの権限は、どう移せばよいのか
Search Consoleは、自社側で新たに所有権を確認したうえで、不要になった権限を削除するという順序で進めます。前の制作会社のアカウントを引き継ぐのではありません。自社のアカウントで所有権を持ち直す作業です。
所有者とユーザという2つの役割
Googleの「所有者、ユーザー、権限の管理」によれば、Search Consoleのプロパティに対する役割は所有者とユーザの2種類です。他のユーザに権限を付与できるのは、プロパティの所有者だけです。
つまり、自社が所有者になっていない状態では、誰かに権限を渡すことも外すこともできません。まず自社が所有者になることが出発点になります。
確認済み所有者と委任された所有者の違い
所有者には2つの種類があります。
| 種類 | 所有権の得方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 確認済み所有者 | 所有権を証明するトークンを使って自分で確認した | 他の所有者に外されない |
| 委任された所有者 | 確認済み所有者から所有権ステータスを付与された | 付与した側が外せる |
Googleの「サイトの所有権を確認する」によれば、所有権の確認とは、そのサイトを所有していることをSearch Console上で証明する手続きです。確認済み所有者は、Search Consoleで最高レベルの権限を持ちます。
目指すのは確認済み所有者です。委任された所有者のままだと、前の制作会社が権限を外した時点で見られなくなります。
過去データを失わないための注意点
作業の順序を間違えると、データを見られなくなります。次の点に注意してください。
- 自社が確認済み所有者になってから、他を外す (つまずきやすい点: 先に前の制作会社の権限を削除すると、誰も所有者でない状態になる)。
- 所有権の確認方法をDNSレコード以外にも用意する (所要時間の目安: 30分)。HTMLファイルやタグでの確認も併用しておくと、DNSの切り替え時に外れません。
- アナリティクスは管理者権限を自社アカウントに付ける (つまずきやすい点: 制作会社のアカウントでプロパティが作られていると、その会社を外した瞬間に管理者が不在になる)。
なお、Search Consoleの過去のデータはプロパティに紐づいています。所有権を移しても、データそのものは残ります。一方でアナリティクスは、プロパティごと別アカウントへ移す必要がある場合があります。どちらも、リニューアルの公開作業より前に済ませてください。
原稿と画像の原本は、どこまで求めてよいのか
求めるのは、公開されているファイルではなく編集可能な原本です。ここが揃わないと、新しい制作会社の側で作り直しになり、追加費用が発生します。
原本として受け取るものの一覧
| 種類 | 公開されているもの | 受け取りたい原本 |
|---|---|---|
| 写真 | Webに合わせて縮小されたJPEG | 撮影時の元データ |
| ロゴ | PNGやJPEG | AIやSVGなどのベクタ形式 |
| 図版・バナー | 書き出された画像 | レイヤが分かれた編集可能ファイル |
| 原稿 | ページに組み込まれた文章 | テキストファイルや文書ファイル |
| 動画 | 圧縮された配信用ファイル | 編集前の素材と書き出し設定 |
依頼するときは「サイトのデータ一式をください」ではなく、この表の右側を名指しで求めてください。曖昧な依頼だと、公開中のファイルをまとめたものが届きます。
素材の準備が追加費用につながる構造
素材が揃わないと、そのぶんの作業が新しい制作会社の見積もりに乗ります。文章の執筆やプロによる撮影を制作会社に別途依頼すると、追加費用が発生します。自社で準備できる素材をあらかじめ洗い出し、該当する項目を見積もりから外してもらうよう事前に相談しておくことが、想定外の追加費用を避ける対策として挙げられています。
契約範囲が曖昧なまま進めることも同じ結果になります。契約時点でどこまでが基本料金に含まれるのかを具体的に取り決めていないことが、想定外の追加費用が発生する典型的な原因のひとつです。
なお、不足分を補助金で賄おうと考える場合は注意が必要です。中小企業庁が公開する「IT導入補助金2024」の公募要領によれば、通常枠の対象は会計ソフトや顧客管理システム、在庫管理システムなどのITツールであり、ホームページの制作費・デザイン費・コーディング費は補助対象に含まれていません。素材の作り直しを補助金で吸収する想定は立てないほうが安全です。
つまずきやすい点: 写真の使用期限が切れている
原本を受け取っても、そのまま使えるとは限りません。次の2点を確認してください。
- 有料のストック写真は、契約しているのが制作会社か自社か
- 人物が写っている写真は、撮影時の許諾がどの範囲まで取れているか
制作会社が自社の契約で購入したストック写真は、その会社との取引が終わると使えなくなる場合があります。人物写真も、掲載する媒体や期間を限って許諾を得ていることがあります。
引き継ぎの依頼時に、素材ごとの出どころと契約の有無を一覧でもらってください。制作物そのものの権利については、次章で扱います。