再委託があるかどうかは、どう確認しますか?
提案書の体制図と見積書の内訳で、作業を担当する会社名と人数を確認します。自社名以外が出てこない場合は、口頭で再委託の有無を質問します。
確認の手順は次の3つです。
- 体制図で担当会社を確認する(所要時間の目安: 10分程度)
- 見積書の内訳から人員の所属を読む(同: 20分程度)
- 書面で答えが出ない点を質問する(同: 打ち合わせ内で5分)
体制図で担当会社を確認する
体制図に会社名が入っているかを見ます。役割名と氏名だけが並び、所属が書かれていない図は、再委託の有無が読み取れません。
つまずきやすい点は、体制図に元請の社名だけが書かれている場合です。社名が1つでも、常駐や派遣の形で他社の人員が入っていることがあります。図の記載だけで判断せず、次の見積書と合わせて読みます。
見積書の内訳から人員の所属を読む
見積書が一式の金額だけで出ている場合は、工程別と役割別の内訳を依頼します。内訳に単価の異なる区分が並んでいれば、複数の調達元がある可能性があります。
単価の違いは経験年数の違いでも生じるため、これも確定の材料にはなりません。判断材料が揃わない点は、そのまま質問に回します。
質問の仕方を決めておく
「再委託はありますか」と聞くと、予定が無いという答えで終わることがあります。次の3点を分けて聞くと、曖昧さが残りません。
- 現時点で再委託の予定があるか
- 開発の途中で再委託する可能性があるか
- 再委託する場合、事前に当社へ知らせるか
3つ目の答えが要件そのものになります。契約に書く内容は後のセクションで整理します。
なぜシステム開発では再委託が起きるのですか?
情報サービス産業が多重下請構造を特徴とする産業構造であり、取引慣行の適正化が長く課題とされてきたためです。個別の会社の事情ではなく、業界の成り立ちに由来します。
産業構造としての背景
情報サービスおよびソフトウェア産業は、多重下請構造を特徴とする産業構造であり、下請取引を含む取引慣行の適正化が課題とされてきました。平成19年6月に「情報サービス・ソフトウェア産業における下請ガイドライン」が策定され、その後も見直しや改訂が実施されています。経済産業省は平成28年度に「情報サービス・ソフトウェア産業における下請取引等に関する実態調査」を実施しています。
出典: 経済産業省委託事業「平成28年度取引条件改善事業(情報サービス・ソフトウェア産業における下請取引等に関する実態調査)調査報告書」
10年以上にわたって国が実態調査とガイドラインの見直しを続けている領域です。御社の発注先だけを疑う話ではなく、確認そのものを手順に組み込む前提で考えます。
再委託そのものは違法ではない
再委託は、契約で禁じられていなければ違法ではありません。特定の技術を持つ会社に一部を任せることで、品質と納期の両方が良くなる場合もあります。
問題になるのは、発注側が知らないまま体制が変わり、次の3つが曖昧になることです。
- 仕様の決定を誰に伝えれば全体に反映されるのか
- 不具合が出たときに誰が直す責任を持つのか
- 秘密保持や納品物の権利が再委託先にも及んでいるのか
つまり、禁止すべきかどうかではなく、この3点が契約で押さえられているかが判断の軸になります。契約に書く項目は次のセクションで整理します。
再委託について契約に書くことは何ですか?
事前承諾の要否、再委託できる範囲、再委託先の行為に対する責任、秘密保持の承継の4点です。この4点が揃っていれば、体制が変わっても確認の手がかりが残ります。
| 項目 | 契約に書く内容 |
|---|---|
| 事前承諾 | 再委託する場合は事前に書面で承諾を得ること |
| 範囲 | 再委託してよい工程と、認めない工程 |
| 責任 | 再委託先の行為について元請が責任を負うこと |
| 秘密保持 | 再委託先にも同等の義務を負わせること |
ひな型は公的機関が公開しています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、情報システム開発委託契約のひな型として「情報システム・モデル取引・契約書」第二版を2020年12月22日に公開しました。第二版の改訂論点には、プロジェクトマネジメント義務と協力義務、およびシステム開発における複数契約の関係が含まれます。開発が複数社に分かれる場合の責任の所在に関わる論点です。
出典: IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年12月22日公開)
事前承諾を要するかを決める
事前承諾を必須にするか、事後の通知で足りるとするかを決めます。必須にすると体制変更のたびに手続きが発生するため、工程によって分ける方法が現実的です。
つまずきやすい点は、承諾の求め方を書かないまま「事前承諾を要する」と書く場合です。誰に、いつまでに、何を伝えるかを書かないと、口頭の報告で済まされます。
責任の所在を元請に集める
再委託先の作業に起因する不具合も、元請が責任を負うと明記します。発注側が再委託先へ直接請求できる契約にはならないため、責任は元請に集めるのが基本です。
この整理をしておくと、不具合が出たときの窓口が1つに保たれます。体制の確認方法は後のセクションで述べます。
秘密保持と個人情報の扱いを承継させる
秘密保持の義務を再委託先にも同等に負わせる条項を入れます。元請との契約だけで秘密保持を結んでいても、再委託先に同じ内容が承継されていなければ実質的に守られません。
個人情報を扱う場合の委託先の監督については、別途整理が必要な論点です。詳しくは個人情報の委託に関する記事を参照してください。
2026年1月施行の取適法で何が変わりましたか?
適用対象の判断基準に従業員数が加わり、一方的な代金決定や手形払い等が禁止されました。委託の一部を別会社へ出す取引も、従来と同じ基準では判断できません。
下請代金支払遅延等防止法および下請中小企業振興法の一部を改正する法律は、令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。法律名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称: 中小受託取引適正化法、通称: 取適法)に変わり、施行日は令和8年(2026年)1月1日です。
出典: 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
適用対象の判断基準の変更
従来の下請法は、発注者と受注者の資本金規模で適用対象が限定されていました。取適法では、従来の資本金基準に加えて従業員数による基準が新たに追加されます。
公正取引委員会は、適用の対象かどうかを「資本金の額、従業員数及び委託内容」で判断するとしており、該当性を確認する診断ツールを用意しています。御社が委託する取引が対象になるかは、この診断で確認してください。
禁止される行為
取適法で禁止される主な行為は次のとおりです。
| 禁止される行為 | 内容 |
|---|---|
| 一方的な代金決定 | 協議に応じない、必要な説明を行わないなどして価格を一方的に決めること |
| 手形払い等 | 手形払い、および電子記録債権やファクタリングのうち支払期日までに代金に相当する金銭を得ることが困難なもの |
| 振込手数料の負担 | 振込手数料を中小受託事業者に負担させること |
出典: 中小企業庁 ミラサポplus「【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など『取適法』がもたらす変化」
自社が委託事業者になる場合
再委託の話は、御社自身が委託する側の立場でも関係します。開発会社に業務を委託する取引が対象に該当すれば、御社が委託事業者として上記の義務を負います。
つまずきやすい点は、資本金だけで対象外と判断してしまうことです。従業員数が基準に加わったため、以前の判断をそのまま使えません。違反行為への指導や助言の権限は、公正取引委員会と中小企業庁に加えて事業所管省庁の主務大臣にも付与されます。
なお、書面による明示の具体的な記載事項と支払期日の日数基準については、公正取引委員会の規則本文で確認してください。
納品物の権利は再委託先が作った部分でも自社に帰属しますか?
契約で権利の帰属を定めていれば帰属させられますが、元請と再委託先の間の契約にも同じ内容が承継されている必要があります。御社と元請の契約だけでは、再委託先が書いたコードの権利は届きません。
権利帰属の条項が連鎖しているかを確認する
確認するのは、条項があるかどうかではなく、条項が連鎖しているかどうかです。御社と元請の契約に権利帰属を書いても、元請と再委託先の契約に同じ定めが無ければ、そこで連鎖が切れます。
元請に対して、再委託先との契約に権利帰属と秘密保持の条項を承継させることを求めます。再委託先との契約書そのものの開示は難しい場合が多いため、承継させる義務を御社との契約に書いておく方法が現実的です。
つまずきやすい点は、納品後に気づくことです。改修を別の会社に頼む段階で、コードの利用に元の再委託先の同意が必要だと判明すると、選択肢が狭まります。権利の帰属そのものの決め方は、ソースコードの著作権に関する記事で扱っています。
公開されているモデル契約書を土台にする
契約の条文を一から考える必要はありません。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書」を土台にできます。
第二版は2020年12月22日に公開されており、第一版が2007年に公表されてからの状況変化を反映したものです。改訂論点にはシステム開発における複数契約の関係が含まれ、開発が複数社に分かれる場合の責任の所在に関わります。
出典: IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年12月22日公開)
御社の取引に合うように条項を調整する作業は必要ですが、論点の抜けを防ぐ確認表として使えます。公的機関が公開しているひな型を土台にすることで、こちらの提示する条項が特異なものではないという説明もしやすくなります。