検収とは何か、契約書でどう位置づけられるか
検収とは、発注者がベンダから受け取った成果物が仕様どおりであるかを確認し、合否を判定する工程です。検収が完了すると発注者の支払義務が確定し、同時にその時点が契約不適合責任(いわゆる保証)期間の起算点にもなります。
検収の位置づけを契約書でどう定めるかは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表しているモデル契約書が参考になります。IPAは2020年12月22日に「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」を公開しました(出典: 情報システム・モデル取引・契約書(第二版)、IPA、2020年12月22日)。このモデル契約書は、ユーザ企業とベンダのどちらか一方に偏らない中立的な内容で、検収方法について双方が対話を深めることを目的としています。
2020年4月1日に施行された改正民法では、成果物に不適合があった場合の通知期限が変わりました(出典: 「システム開発の健全化に向けて」IPAデジタル基盤センター)。従来の「引渡しから1年」という規定に代えて、「契約不適合を知った時から1年以内に通知する」ことが原則となっています。検収完了日を明確にしておくことは、発注者とベンダが保証期間の起点を共有するうえでも欠かせません。通知期限の具体的な定め方は後述します。
契約不適合責任の通知期限はどう定めるべきか
改正民法では契約不適合を知った時から1年以内の通知が原則ですが、IPAのモデル契約書は検収完了後の期間を基準にする客観的な起算点を契約書上の規定として維持しています。
前述のとおり、2020年4月1日に施行された改正民法では「契約不適合を知った時から1年以内に通知する」ことが原則です(出典: 「システム開発の健全化に向けて」IPAデジタル基盤センター)。しかし「知った時」は発注者の主観に左右されやすく、いつが起算点なのかで争いになりかねません。
そこでIPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年12月22日公開)は、「検収完了後〇か月または〇年以内に通知する」という客観的な起算点を契約書上に定める方式を採っています。検収完了日という明確な日付を基準にできるため、発注者・ベンダの双方にとって実務上わかりやすくなります。契約書のドラフトでは、この通知期間を具体的な月数・年数で明記しておくことが実務上の要点です。
なお、ここでいう「通知」とは、単に不満を伝えるだけでは足りず、不適合の種類と範囲を相手方が具体的に把握できる程度に伝えることを指します。
ベンダに故意・重過失がある場合の扱い
ベンダに故意または重過失があった場合には、この通知期間の制限は適用されません。契約書に通知期間を定める際は、この例外規定も併記しておくと、発注者側の不利益を防ぎやすくなります。
検収条件を決めるには、何から始めればよいか
検収条件を決めるには、まず仕様書・成果物一覧を確定し、そのうえで合否判定の基準を検収条件として契約書に明文化することから始めます。
仕様書と検収条件の関係を先に整理する
検収条件は、仕様書に書かれた内容と対になっています。仕様や要件が曖昧なまま契約を進めると、検収の場面で何を基準に合格とするかが定まりません。
IPAは2019年に、中小企業の担当者でも要件定義の進め方を追えるよう「ストーリーで学ぶ要件定義実践入門」を公開しています(出典: IPA「ITを経営に活かしたい中小企業向け ストーリーで学ぶ要件定義実践入門」公開告知、2019年)。同資料は、要件定義を発注者とベンダが共同で行う上流工程として位置づけています。
RFP(提案依頼書)と要件定義書は、作成のタイミングと目的が異なります。RFPはベンダ選定前に発注者が実現したいことをまとめる文書です。要件定義書はベンダ選定後に両者が協議しながら詳細化するものです。この順番を踏まえずに検収条件だけを先に詰めても、何を基準にするかが定まりません。仕様書・要件定義書を固めることが、検収条件を具体的に書くための土台になります。
契約書に盛り込むべき検収条件の項目は
検収条件には、検収基準・検収方法・検収期間・不合格時の対応の4点を最低限明記する必要があります。
実務解説でも、システム開発の契約書について発注側が確認すべきチェックポイントとして、検収基準・知的財産権の帰属・契約不適合責任の3点がよく挙げられています。この中でも検収基準は、成果物の合否を左右する最も重要な項目です。
契約書に明記すべき項目を整理すると、次のとおりです。
- 検収基準: 何を満たせば合格とするかを、仕様書や受入試験項目書と紐づけて具体的に書きます。つまずきやすい点は「問題なく動作すること」のような抽象的な表現のまま残してしまうことです。
- 検収方法: 誰がどのように確認するかを定めます。つまずきやすい点は、検証環境と本番環境の差異を考慮せずに方法だけを決めてしまうことです。
- 検収期間: 検収にかけられる期間の上限を定めます。つまずきやすい点は、期間を定めないまま契約し、検収が長期化しても是正を求めにくくなることです。
- 不合格時の対応: 修補の期限や再検収の手続きをあらかじめ定めます。つまずきやすい点は、修補の回数や期限を定めず、再検収が繰り返されてしまうことです。
検収基準の書き方の目安
検収基準を書き起こす作業量は仕様書の項目数によって変わります。仕様書の各項目と検収基準を1対1で対応付けながら、余裕を持って着手することが推奨されます。
つまずきやすい検収基準の抜け漏れ
実装者の視点で特につまずきやすいのは、機能要件は検収基準に明記されていても、応答速度やデータ量といった非機能要件の合格基準が抜け落ちるケースです。性能面の基準を契約書に書いていないと、動作はするが遅い成果物でも検収に通さざるを得なくなります。
準委任契約と請負契約で検収条件の書き方は変わるか
請負契約では成果物の完成そのものを検収するのに対し、準委任契約(アジャイル開発等)では稼働状況の確認が中心になるため、検収条件の設計思想が異なります。
経済産業省が策定した「情報システム・モデル取引・契約書」は、外部設計から運用テストまでの上流工程について、受注者に完成義務を負う請負ではなく、ユーザ企業側が主体となる準委任型の契約を採用しています。初版は2007年に公開され、その後IPAが2019年5月から2020年12月にかけて全面的な見直しを行い、第二版として公開しました(出典: 情報システム・モデル取引・契約書(第二版)、IPA)。
2020年4月1日に施行された改正民法により、準委任契約に成果物の完成と納品の義務を負う「成果完成型」が新設されました(出典: 「準委任契約の成果完成型とは」)。従来からの準委任、稼働時間の提供そのものが報酬の対象になる形態は「履行割合型」と呼ばれます。
この2類型のどちらかで、検収の意味が変わります。
- 履行割合型の準委任: 成果物の完成を約束する契約ではないため、検収という手続きになじみません。確認するのは稼働状況や実施した作業内容であり、契約不適合責任も適用されません。
- 成果完成型の準委任: 請負と同様に成果物の完成が契約の目的となるため、検収が必要です。契約不適合責任も適用され、発注者は不適合を知った時から1年以内に通知することで、修補請求などができます(出典: 「準委任契約に契約不適合責任は適用される?」)。
アジャイル開発のように、開始時点で最終仕様が確定していない開発手法は、履行割合型の準委任契約になじみやすいとされています。仕様が固まっていない段階で検収基準だけを厳密に定めようとすると、実態に合わない契約になりやすい点に注意が必要です。
検収条件を曖昧にすると起きやすいトラブルは
検収基準が曖昧だと、成果物の合否判断で発注者とベンダの認識が食い違い、支払いの遅延や契約不適合の主張が通らないといったトラブルにつながります。
検収条件を「問題なく動作すること」のような抽象的な表現のまま契約書に残してしまうと、いざ成果物を受け取った際に何をもって合格とするかで揉めやすくなります。発注者は不具合だと考えても、ベンダは仕様の範囲内だと主張できてしまうためです。
よくある食い違いのパターン
現場でよく見られる食い違いには、次のようなパターンがあります。
- 機能要件は満たしているが、表示速度や同時アクセス時の挙動といった非機能要件を発注者が期待していたケース
- 検収期間を定めておらず、ベンダ側が確認作業を先延ばしにして支払いが遅れるケース
- 検収に合格した後で不具合が見つかったが、契約不適合責任の通知期限や条件を契約書に定めておらず、対応を求めにくいケース
いずれも、契約締結の時点で検収条件を具体的な文言として書き残していれば防ぎやすいトラブルです。口頭でのすり合わせだけに頼らず、契約書に明記しておくことが実務上の予防策になります。
検収条件の設計に不安がある場合はどうすればよいか
検収基準の設計や契約書レビューに自信が持てない場合は、要件定義から契約書作成まで実装者が伴走する外部支援を活用する方法があります。
ここまで見てきたように、検収条件は仕様書の内容、検収完了後の通知期限、契約形態(請負か準委任か)という複数の要素を踏まえて設計する必要があります。法務や契約実務に不慣れな担当者が、社内だけでこれらを漏れなく詰めるのは負担が大きい作業です。特に検収基準に非機能要件まで落とし込む作業は、開発の実務を理解していないと抜け漏れに気づきにくいという難しさがあります。
御社がこうした不安を抱えている場合、要件定義から契約条件の整理までを実装者自身が伴走する形で支援を受けるという選択肢があります。当社ノーティックラボでは、代表がRAGやComputer Visionといった開発を自ら実装するAIエンジニアであり、コンサルやライターではなく実装者の視点から、検収基準に落とし込むべき技術的な要件の整理をお手伝いしています。
御社の要件やシステム構成は無料診断でお伺いすることも可能です。契約書の内容そのものへの法的助言は弁護士等の専門家にご相談いただく前提となりますが、検収条件に何を盛り込むべきかの技術的な整理でお困りの際は、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
よくあるご質問
この記事に関して多い質問と回答をまとめます。
検収条件と検収基準の違いは何ですか
検収基準は、成果物を合格とする具体的な判定基準そのものを指します。検収条件は、検収基準に加えて検収方法・検収期間・不合格時の対応まで含めた、契約書上の一連の取り決め全体を指す言葉として使われます。
検収に要する期間はどのくらいが一般的ですか
検収に要する期間は、成果物の規模や検証項目の数によって案件ごとに異なります。目安となる日数を契約書に定めていない状態は避け、上限となる期間をあらかじめ取り決めておくことが重要です。
検収で不合格になった場合、どう対応すればよいですか
契約書に定めた不合格時の対応に従い、ベンダに修補を求めます。修補の期限や再検収の手続きをあらかじめ契約書に明記しておくと、対応がスムーズになります。
契約不適合責任の通知期限を過ぎるとどうなりますか
通知期限を過ぎると、原則として修補請求や損害賠償請求などができなくなる可能性があります。ただしベンダに故意または重過失があった場合は、この期間制限は適用されません。
準委任契約でも検収は必要ですか
準委任契約のうち、稼働時間の提供が報酬の対象となる履行割合型では、検収という手続きにはなじみません。一方、成果物の完成を契約の目的とする成果完成型では、請負契約と同様に検収が必要です。
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