ソースコードの譲渡費用とは?まず何に対して払うのか
ソースコードの譲渡費用とは、納品物を動かす権利への対価ではなく、著作権という財産権を開発会社から自社へ移すことへの対価です。開発費を全額払ったのだからコードは自社のものになる、という理解で見積書を読むと、この行の意味がわかりません。
納品されること、使えること、改変できることは別の話です
発注したシステムについて、御社が手にするものは3つの層に分かれます。
| 層 | 内容 | 根拠になるもの |
|---|---|---|
| 納品 | ソースコードのファイルを受け取る | 納品物の定義 (契約書の別紙等) |
| 利用 | 受け取ったコードを業務で動かす | 著作権の譲渡または利用許諾 |
| 改変 | コードに手を入れて機能を変える | 翻案等の権利の扱い (後述) |
ファイルを受け取っただけでは、改変まで自由にできるとは限りません。著作権法第15条第2項は、法人等の発意に基づきその業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、別段の定めがない限りその法人等とすると定めています (出典: 著作権法、e-Gov法令検索)。つまり開発会社の従業員が書いたコードの著作者は、原則として開発会社です。
費用を払って発注したという事実だけでは、権利は自動的に移りません。移すには契約で取り決める必要があり、その取り決めの対価が譲渡費用です。
さらに、譲渡の書き方によって結果が変わります。著作権法第61条第2項は、著作権を譲渡する契約において第27条または第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています (出典: 著作権法、e-Gov法令検索)。改変に関わる権利が残る場合があるということです。この特掲の確認方法は後述します。
あわせて、対価を払っても移らない権利もあります。著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができません (出典: 著作権情報センター「著作者にはどんな権利がある?」)。
2026年10月時点の前提と、この記事で扱う範囲
本記事の内容は2026年10月時点の法令とIPAの公開資料に基づきます。扱う範囲は、業務システムの受託開発で納品されるソースコードです。
| 扱うもの | 扱わないもの |
|---|---|
| 受託開発したソースコードの譲渡と利用許諾 | パッケージやSaaSの利用料 |
| 譲渡の対価が見積書に現れる形 | 開発費本体の工数単価の算定 |
| 改変の可否を決める契約上の記載 | 著作権侵害が起きた後の紛争対応 |
開発費本体の相場や工数単価の見方は別記事で扱っています。ここでは開発費とは別に積まれる、権利についての対価だけを見ていきます。
譲渡の対価は見積書のどこに現れるか
譲渡の対価は開発費とは別の行として積まれるのが通常で、権利譲渡費、著作権譲渡料、二次利用許諾料といった名目で記載されます。開発費の中に溶け込ませて書かれることもあり、その場合は内訳を聞かないと有無が判別できません。
金額そのものは、案件の規模と要件により大きく変動します。流用するコードの割合や保守を継続するかどうかで変わるため、相場という形では示せません。変動の要因は後述します。
初期費用、月額、オプション、従量課金に分けた内訳の見方
見積書を次の4つに分けて並べ直すと、権利についての対価がどこにあるかが見えます。
| 区分 | 典型的な項目 | 権利に関わる行の例 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 要件定義、設計、実装、テスト、移行 | 著作権譲渡費、権利譲渡一時金 |
| 月額 | 保守、監視、障害対応、ホスティング | 継続利用許諾料 |
| オプション | 追加開発、帳票追加、他システム連携 | 二次利用許諾料、再委託許諾料 |
| 従量課金 | API呼び出し、ストレージ、通数 | 該当なし |
確認の軸は3つです。
- 初期費用に権利の行があるか。無い場合、譲渡が含まれているのか、利用許諾だけなのかを確かめます。
- 月額に利用許諾料が入っていないか。入っていれば、保守を解約した後も使い続けられるかが論点になります。
- オプションに再委託や二次利用の許諾料があるか。あれば、別の会社に保守を移す時点で費用が発生する設計です。
名目が書かれていないときに確認する2つの質問
権利に関する行が見積書に見当たらないときは、次の2点を書面で尋ねます。口頭の回答ではなく、見積書か契約書の文言として残すことが重要です。
- 納品後の著作権は、どちらに帰属する想定ですか。譲渡であれば、その対価はどの行に含まれていますか。
- 著作権法第27条と第28条の権利は、譲渡の対象に含まれていますか。
2番目を尋ねる理由は、著作権法第61条第2項が、譲渡契約でこの2条の権利が特掲されていないときは譲渡した者に留保されたものと推定すると定めているためです (出典: e-Gov法令検索「著作権法」昭和45年法律第48号)。特掲の対象になる条文は第27条と第28条の2条だけですので、確認は短く済みます。条文の中身と確認手順は次のセクションで扱います。
なお、契約書の文言を一から用意する必要はありません。IPAは「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」を2020年12月22日に公開しており、権利の帰属に関する条項を公的なひな形から確認できます (出典: IPA「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」)。
契約書に何と書いてあれば改変できるのか
著作権法第61条第2項により、第27条と第28条の権利が譲渡の目的として特掲されていなければ、これらの権利は開発会社に留保されたものと推定されます (出典: e-Gov法令検索「著作権法」昭和45年法律第48号)。条文は「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する」と定めています。
つまり「本件成果物の著作権は甲に譲渡する」とだけ書かれた契約書では、改変に関わる権利が相手方に残っている前提で読まれます。
第27条と第28条が特掲されているかを確認する
特掲が必要な条文は2条だけです。それぞれの中身は次のとおりです。
| 条項 | 内容 | ソースコードでの意味 |
|---|---|---|
| 第27条 (翻訳権、翻案権等) | 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する | コードの改修や機能追加は翻案にあたり得ます |
| 第28条 (二次的著作物の利用に関する原著作者の権利) | 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する | 改修後のコードを使い続ける場面にも元の著作者の権利が及び得ます |
出典はいずれもe-Gov法令検索「著作権法」です。確認の手順は次の3段です。
- 契約書の著作権条項を開き、第27条と第28条の条番号が明記されているかを見ます。
- 明記されていない場合、「著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む」という文言の追加を依頼します。
- 追加に応じられない場合は、改変と第三者への再委託を認める利用許諾の形で代替できるかを確認します。
実装者の立場から申し上げると、この2条の扱いが決まっていないコードは、数年後の改修で必ず問題になります。改修を別の会社に出す場面や、御社の中で手を入れる場面で、都度許諾を取り直すことになるためです。
著作者人格権と同一性保持権は譲渡では移りません
著作権という財産権を譲り受けても、著作者人格権は移りません。著作権法第59条は、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないと定めています (出典: e-Gov法令検索「著作権法」)。
関連するのが第20条第1項の同一性保持権です。著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとすると定められています (出典: e-Gov法令検索「著作権法」)。
そのため実務では、著作権の譲渡とあわせて著作者人格権の取り扱いを別に定めるのが通例です。確認するのは次の2点です。
- 著作者人格権の不行使について、契約書に条項があるか。
- 不行使の範囲が、改修や第三者への委託を含んでいるか。
IPAのモデル契約書を出発点にする
条項を一から起草する必要はありません。IPA (独立行政法人情報処理推進機構) は「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」を2020年12月22日に公開しています (出典: IPA「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」)。受託開発や保守運用に関するモデル契約がWord形式で提供されており、自社向けに編集して使えます。
公的機関が公開しているひな形を基準にすると、開発会社との交渉も「ひな形との差分」の話に整理できます。差分がある箇所だけを説明してもらえば、確認の範囲が狭く済みます。
そもそも著作者は誰になるのか
著作権法第15条第2項により、開発会社の従業員が職務上作成したプログラムの著作者は、別段の定めがない限りその開発会社です (出典: e-Gov法令検索「著作権法」昭和45年法律第48号)。条文は「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする」と定めています。
ここが譲渡費用の出発点です。相手が権利を持っているからこそ、移すための対価が発生します。
発注して費用を払っても権利は自動では移りません
発注者が費用を負担し、仕様も発注者が決めたとしても、それだけでは著作者は変わりません。第15条第2項が見ているのは、誰が発意したかではなく、作成した人がどの法人等の業務に従事していたかです。
なお、デザインや文章には第15条第1項が適用されます。第1項には「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件がありますが、プログラムの著作物を定めた第2項にはこの要件がありません (出典: e-Gov法令検索「著作権法」)。ソースコードは公表の名義にかかわらず、開発会社が著作者になり得るということです。
権利を御社に移す方法は2つに整理できます。
| 方法 | 内容 | 費用の現れ方 |
|---|---|---|
| 譲渡 | 著作権 (財産権) を御社に移す | 権利譲渡費として初期費用に積まれます |
| 利用許諾 | 権利は開発会社に残し、使う範囲を契約で定める | 利用許諾料として月額やオプションに現れます |
どちらを選ぶかで費用と自由度が変わります。その比較は次のセクションで扱います。
外部の個人や再委託先が書いたコードがある場合の確認点
第15条第2項が適用されるのは、法人等の業務に従事する者が職務上作成した場合です。外部の個人事業主に委託した部分や、再委託先が書いた部分は、この条文の射程が異なります。
確認するのは次の3点です。
- 再委託の有無。契約書に再委託を認める条項があるか、実際に再委託されているかを尋ねます。
- 再委託先からの権利の取得。開発会社が再委託先から権利を取得済みであることを、契約書上で表明してもらいます。
- 外部の個人が書いた部分の扱い。業務委託の場合は職務著作にならないため、個別の譲渡合意が必要になります。
実装の現場では、UIの一部を外部のデザイナが作り、特定の処理を別の会社が作るという分業は珍しくありません。開発会社が全体をまとめて納品していても、権利の取得が途中で抜けていると、御社に移せる範囲も抜けます。
そのため、権利の帰属を定める条項に加えて、開発会社が第三者の権利を適法に取得していることの表明保証を置くかどうかを確認します。表明保証があれば、後から第三者の権利が判明したときの責任の所在が契約書の中で決まります。
あわせて、オープンソースソフトウェアが含まれる場合は、譲渡とは別にライセンス条件が残ります。この点は費用を左右する要因として後述します。