外注先で漏えいが起きたとき、報告するのは誰ですか?
個人データを取り扱う主体として義務を負うのは、原則として委託元である御社です。外注先に任せたことで義務が移るわけではありません。
根拠は条文にあります。委託は義務の移転ではなく、監督の対象が増える行為として定められています。
委託元と委託先の立場の違い
個人情報の保護に関する法律第25条は、個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合は、委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならないと定めています (出典: e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)。
委託先を監督する義務が委託元に課されている構成です。つまり外注先の環境で起きた事態も、委託元の管理下の出来事として扱われます。
報告と通知については同法第26条に定めがあります。第26条第1項は、個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって、個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、その旨を個人情報保護委員会に報告しなければならないと定めています。第26条第2項は、その場合に本人に対しても当該事態が生じた旨を通知しなければならないとしています (出典: 同法第26条)。
立場の違いを整理します。
| 立場 | 法律上の位置 | 漏えい時の役割 |
|---|---|---|
| 委託元 (御社) | 個人情報取扱事業者として安全管理措置と委託先の監督の義務を負います | 個人情報保護委員会への報告と本人への通知の主体になります |
| 委託先 (外注先) | 委託元の監督を受ける立場です | 事実の報告、調査への協力、ログの提供を行います |
契約で決められるのは手順と費用の分担
契約で義務の主体を変えることはできません。決められるのは、御社が義務を果たすために必要な動きを外注先にどこまで求めるかです。
契約で決める対象は次の範囲です。
- 外注先が異常を把握してから御社へ連絡するまでの期限。所要時間の目安は、文言を決めるだけなら30分です。つまずきやすい点は「速やかに」と書いてしまい、実際の連絡が数日後になることです。
- 調査への協力の範囲。誰がどの作業をどこまで行うかを書きます。
- ログの保全。どのログをどれだけの期間残すかを書きます。
- 調査と通知にかかる費用の分担。
- 再委託先で起きた場合の扱い。
実装者の立場から1点補足します。外注先に本番環境の管理権限を渡している構成では、ログの設定を変えられる立場も外注先にあります。保全の約束だけでなく、ログの保存先を御社側に置けるかを設計の段階で確認します。
具体的な条文の並びと、契約への書き方は次のセクション以降で扱います。
どの条文が根拠になりますか?
安全管理措置、従業者と委託先の監督、漏えい等の報告を定めた条文が根拠です。発注の場面で押さえるのはこの範囲です。
いずれも個人情報の保護に関する法律の条文で、並びとして続いています。順に読むと、平時の備えから事後の報告までが1つの流れになっていることが分かります。
条文の並びと役割
4つの条文を整理します。
| 条文 | 定めている内容 | 発注の場面での意味 |
|---|---|---|
| 第23条 | 取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない | システムに求める安全管理の要件の根拠になります |
| 第24条 | 従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、その従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない | 権限の設計と操作の記録の根拠になります |
| 第25条 | 個人データの取扱いの全部または一部を委託する場合は、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない | 外注先との契約と運用の取り決めの根拠になります |
| 第26条 | 一定の事態が生じたときは個人情報保護委員会に報告し、本人にも通知しなければならない | 漏えい時の報告と通知の義務の根拠になります |
出典はいずれもe-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057) です。
第23条の義務は、紙の台帳でも表計算ファイルでも同じようにかかります。システム化は義務を新たに生む作業ではなく、すでに求められている措置を説明できる形に整える作業にあたります。
外注の契約に落ちる部分
条文のうち、外注の契約書に文言として落ちるのは第25条と第26条に関わる部分です。
- 第25条に関わる部分: 監督の方法を書きます。報告を受ける頻度、作業する担当者の範囲、本番データを扱う場合の手順を含めます。所要時間の目安は、外注先との確認を含めて1週間です。
- 第26条に関わる部分: 事態が起きた場合の連絡と協力を書きます。つまずきやすい点は、連絡の義務だけを書いて、調査に必要な資料の提供範囲を書き忘れることです。
第24条の従業者の監督は、御社の社内規程の側で扱う内容です。外注先の従業者については、第25条の監督の一部として契約に含めます。
なお、個人情報保護委員会は講ずべき安全管理措置の内容をガイドライン (通則編) で示しています (出典: 個人情報保護委員会 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/)。要件の水準を決めるときは、この通則編を参照します。
平時の監督義務と契約への書き方そのものは「システム外注の個人情報|委託先監督と契約の書き方」で扱っています。本記事では、事態が起きた後の動きに絞って続けます。報告の期限は次のセクションで扱います。
報告と通知の期限はどうなっていますか?
速報と確報の2段階で個人情報保護委員会へ報告し、本人への通知も行います。期限があるため、気づいた時点からの時間が勝負になります。
起点は、報告対象の事態を知った時点です。外注先からの連絡が遅れると、その分だけ御社の持ち時間が削られます。
速報と確報の違い
個人情報保護委員会のガイドライン (通則編) では、報告が2段階に分かれています。
| 段階 | 期限 | 内容 |
|---|---|---|
| 速報 | 速やかに報告します。目安は概ね3日から5日以内です | 分かっている範囲での報告です |
| 確報 | 当該事態を知った日から30日以内 (一定の類型に該当する場合は60日以内) です | 事実関係が確定した後の報告です |
出典は個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン (通則編)」(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/) です。期限の正確な適用範囲は原典をご確認ください。
本人への通知については、報告対象事態を知ったときは、当該事態の状況に応じて速やかに本人への通知を行わなければならないとされています。通知する事項は、概要、漏えい等が発生した個人データの項目、原因、二次被害のおそれ、その他参考となる事項の範囲です。連絡先がない場合や古い場合など通知が困難なときは、事案の公表などの代わるべき措置で対応できるとされています (出典: 同ガイドライン)。
根拠となる条文は個人情報の保護に関する法律第26条で、第1項が個人情報保護委員会への報告、第2項が本人への通知を定めています (出典: e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057)。
期限に間に合わせるために事前に決めること
速報の目安が3日から5日という前提で考えると、外注先からの連絡が1週間後では間に合いません。発注時に次の3点を決めます。
- 外注先が異常を把握してから御社へ連絡するまでの時間を、時間数で決めます。所要時間の目安は、文言を決めるだけなら30分です。
- 連絡を受ける窓口を、担当者個人ではなく部署か共有の連絡先にします。つまずきやすい点は、担当者の個人メールだけを窓口にして、休暇中に気づかれないことです。
- 速報に必要な情報の最小限の項目を、あらかじめ外注先と共有します。何が漏れた可能性があるのか、対象の件数の見込み、原因の見当の3点です。
実装者の立場から1点補足します。速報の段階で求められるのは精度ではなく速さです。件数が確定するまで報告を待つという判断は、期限の側から見ると成立しません。確定を待つ部分は確報に回します。
初動の具体的な手順は後述します。
契約に書いておく項目は何ですか?
通知の期限、調査への協力、ログの保全、費用の分担、再委託先の扱いの5項目です。発注時の契約書か個人情報取扱に関する覚書に残します。
既存の契約に「個人情報を適切に取り扱う」とだけ書かれている場合は、この5項目が足りていません。
5項目の書き方
記載例とあわせて示します。所要時間の目安は、文言をまとめるだけなら1時間です。
| 項目 | 決める内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 1. 通知の期限 | 外注先が異常を把握してから御社へ連絡するまでの時間 | 事態を認識した時点から12時間以内に、書面または電子メールで通知すること |
| 2. 調査への協力 | 誰がどこまで行うか | 原因の調査、影響範囲の特定、再発防止策の策定に協力すること |
| 3. ログの保全 | どのログをどれだけ残すか | アクセスログと操作ログを90日分保存し、事態の認識後は削除しないこと |
| 4. 費用の分担 | 調査と通知にかかる費用の負担 | 外注先の責に帰すべき事由による場合の調査費用の負担を定めること |
| 5. 再委託先の扱い | 再委託先で起きた場合 | 再委託先に本契約と同等の義務を課し、その履行について責任を負うこと |
つまずきやすい点は、1の期限を「速やかに」と書いてしまうことです。前のセクションで見たとおり、速報の目安は概ね3日から5日以内です。外注先の連絡が数日後になると、御社の持ち時間が残りません。時間数で書きます。
3のログの保全も見落としやすい項目です。保存期間を決めていない構成では、調査を始める時点でログが残っていないことがあります。
実装者の立場から1点補足します。クラウドのサービスを使っている場合、ログの保存期間は契約しているプランで決まることがあります。外注先に90日と約束させても、基盤側の設定が30日であれば実現しません。契約の文言を決める前に、実際の保存期間を確認します。
契約書の書式として参照できる資料
書式を一から作る必要はありません。IPA (独立行政法人情報処理推進機構) が「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」を公開しており、システム開発の契約の条項を確認する際の参照先になります (出典: IPA「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」)。
再委託に関わる取引のルールについては、経済産業省の下請ガイドラインと、中小受託取引適正化法 (下請代金支払遅延等防止法の改正後の名称) があります。契約の形を整えるときは、こうした公開資料で条項の立て方を確認したうえで、御社の顧問弁護士または専門家にご相談ください。
なお平時の監督義務と契約記載の全体像は「システム外注の個人情報|委託先監督と契約の書き方」で扱っています。本記事の5項目は、事態が起きた後の動きに必要な部分です。