受発注を電子にすると、何を保存する義務が生じますか?
メールやWebでやり取りした注文書や注文請書などの取引データに、電子のまま保存する義務が生じます。印刷して綴じる運用では要件を満たしません。
受発注のシステム化を考えるとき、見落とされやすいのがこの点です。業務が楽になるかどうかの前に、法令上の保存義務が付いてきます。
対象になるのは電子取引でやり取りした書類です
国税庁の「電子取引関係」のページには、次のように記載されています。請求書、領収書、契約書、見積書などに関する電子データを送付または受領した場合には、その電子データを一定の要件を満たした形で保存することが必要である、という内容です。
出典: 国税庁「電子取引関係」。
受発注に当てはめると、対象は次のような書類です。
| 書類 | 電子でやり取りした場合 |
|---|---|
| 注文書 | 対象になります |
| 注文請書 | 対象になります |
| 見積書 | 対象になります |
| 請求書 | 対象になります |
| 領収書 | 対象になります |
送った側も受け取った側も、それぞれが保存の義務を負います。取引先が電子で送ってきたから相手が保存している、という整理にはなりません。
FAXは送り方と受け方で扱いが変わります
ここは判断に迷いやすい部分です。国税庁の記述は「電子データを送付・受領した場合」を対象としています。
この記述からすると、次の切り分けになると読めます。
- 複合機で紙に出力して受け取るFAXは、電子データの受領には当たらない
- インターネットFAXなどで、PDFのデータとして受け取る場合は電子取引に当たる
ただし、これは上記の記述からの読み取りです。自社の運用がどちらに当たるかは、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」で確認してください。
実務上の注意を1つ申し添えます。同じ取引先からのFAXでも、送信元の設備が変われば扱いが変わることがあります。受け取り方が複数ある場合は、取引先ごとではなく、受け取り方ごとに整理してください。
いつから必要になったのか、要件の中身は何かは、次から順に説明します。
いつから電子での保存が必要になりましたか?
令和6年(2024年)1月からです。令和5年12月31日までは、印刷して保存し税務調査等で提示できれば差し支えないとされていました。
期限は既に過ぎています。まだ紙に出力して綴じるだけの運用であれば、対応が必要な状態です。
経過措置は終わっています
国税庁の「電子取引関係」のページには、次のように記載されています。令和5年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示または提出できるようにしていれば差し支えない、という内容です。事前申請等は不要とされていました。
続けて、令和6年からは保存要件に従って電子データの保存が行えるよう必要な準備をお願いします、と記載されています。出典: 国税庁「電子取引関係」。
この経過措置は、令和4年度税制改正で措置された宥恕措置です。適用期限である令和5年12月31日をもって廃止されています。
つまり、現在は原則どおりの保存が求められる状態です。
猶予措置として残っているもの
一方で、猶予措置は残っています。宥恕措置とは別のものです。
国税庁の資料によれば、次の2つを満たす場合には、電子取引データを保存しておくだけで差し支えないとされています。
- ルールに従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)
- 税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示または提出の求めに、それぞれ応じることができるようにしている場合
相当の理由には、システム整備が間に合わない、資金不足、人手不足といった幅広い理由が認められると説明されています。出典: 国税庁の電子帳簿等保存制度に関する資料。
ここで誤解しやすい点があります。猶予措置があるからといって、紙だけで保存してよいわけではありません。電子データそのものは保存しておく必要があります。
整理すると次のとおりです。
| 運用 | 現在の扱い |
|---|---|
| 電子データを残さず、紙だけ保存 | 認められません |
| 電子データは残すが、検索できない状態 | 猶予措置の対象になりえます |
| 保存要件をすべて満たしている | 原則どおりの対応です |
自社が真ん中の状態なら、まず電子データを消さずに残すところから始めてください。要件の中身は次で説明します。
保存要件とは? 何を満たせばよいですか
国税庁は原則的なルールを3つ挙げています。改ざん防止の措置をとること、確認するためのディスプレイやプリンタ等を備え付けること、日付と金額と取引先の3要素で検索できることです。
民間の解説では、これを真実性の要件と可視性の要件の2つに整理しています。呼び方が違うだけで、求められる内容は同じです。
真実性の要件で認められる4つの措置
改ざん防止のための措置は、4つの選択肢から選べます。すべてを満たす必要はありません。
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| 受領時のタイムスタンプ | タイムスタンプが付与されたデータを受領する |
| 付与によるタイムスタンプ | 受領したデータにタイムスタンプを付与する |
| 履歴が残るシステム | 訂正と削除の履歴が残るシステム等で授受および保存する |
| 事務処理規程 | 改ざん防止のための事務処理規程を策定し、運用し、備え付ける |
出典: 国税庁の電子帳簿等保存制度に関する資料。
国税庁の資料は、専用のシステムを導入しない方法もあると説明しています。事務処理規程のサンプルは、国税庁がWordファイルで公表しています。
可視性の要件で求められるもの
可視性は、必要なときに取り出して見せられる状態を指します。民間の解説によれば、求められるのは次の3点です。
- 保存場所にパソコン、プログラム、ディスプレイ、プリンタおよびマニュアルを備え付け、整然とした形式で速やかに出力できるようにしておくこと
- システム概要書を備え付けること
- 検索機能を確保すること
出典: クラウドサイン「電子帳簿保存法の要件とは?2026年最新のポイントをわかりやすく解説」。
2つ目に注目してください。システム概要書の備付けが求められています。受発注システムを外注する場合、これは成果物として求めるべき書類にあたります。
契約時に指定しておかないと、後から作ってもらうことになります。その場合は追加費用が発生します。
費用をかけずに満たすなら事務処理規程です
予算をかけずに真実性の要件を満たすなら、事務処理規程を選ぶのが現実的です。理由は2つあります。
- タイムスタンプの仕組みを導入する必要がない
- 規程のサンプルが国税庁から公表されている
規程で定めるのは、データを訂正したり削除したりする場合の手続です。誰の承認を得るのか、記録をどう残すのかを文章にします。
注意点もあります。規程は作って終わりではありません。国税庁の資料は、策定し、運用し、備え付けることを求めています。運用されていなければ、要件を満たしたとは言えません。
実装する側から見ると、ここは仕組みで支える余地があります。受発注システム側で訂正と削除の履歴を残せるなら、履歴が残るシステムという選択肢に寄せたほうが、運用の負担は軽くなります。
検索の要件については、緩和の条件があります。次で説明します。
検索要件はどこまで必要ですか?
取引年月日その他の日付、取引金額、取引先で検索できる状態が原則です。ただし基準期間の売上高によっては、検索要件を満たす必要がなくなります。
システムに求める機能の範囲が変わる部分です。先に自社がどちらに当たるかを確かめてください。
検索の対象になる3つの項目
国税庁の資料によれば、検索できる必要があるのは日付、金額、取引先の3つの要素です。
これに加えて、次のどちらかが必要とされています。
- 日付または金額での範囲指定検索と、2つの要素を組み合わせた検索ができること
- 税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードの求めに応じることができること
出典: 国税庁の電子帳簿等保存制度に関する資料。
つまり、専用の検索画面が必須というわけではありません。ダウンロードの求めに応じられるなら、範囲指定や組み合わせの検索までは求められません。
簡易な方法も認められています。国税庁の資料が挙げているのは次の2つです。
- 表計算ソフト等で索引簿(連番、日付、金額、取引先、備考)を作成して検索する方法
- 日付、金額、取引先の順で規則性をもったファイル名を付け、特定のフォルダに集約する方法
出典: 同資料。
この2つは、システムを導入しなくても実行できます。件数が月に数十件までなら、索引簿で十分に回ります。
売上高による緩和の条件
基準期間の売上高が5,000万円以下の場合には、検索の要件を満たす必要がありません。条件は、電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしていることです。
基準期間は、2年前または2期前を指します。出典: 国税庁の電子帳簿等保存制度に関する資料。
ここは税制改正で変わる可能性のある部分です。判断の前に、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」で最新の内容を確認してください。
自社がどちらに当てはまるかの確かめ方
確認は次の順で進めてください。
- 2年前または2期前の売上高を、決算書から確認する(所要の目安: 10分)
- 5,000万円以下であれば、ダウンロードの求めに応じられる状態かを確認する
- 5,000万円を超えていれば、索引簿か規則的なファイル名か、システムの検索機能のどれで満たすかを決める
- 決めた方法を、事務処理規程または運用手順の文書に残す
つまずきやすい点は1つ目です。基準は今期の売上ではありません。2年前または2期前です。売上が伸びている会社では、来期には対象が変わることがあります。
御社が5,000万円を超える規模であれば、システムの検索機能を使うのが現実的です。次のセクションで、外注時に何を要件として書くかを整理します。