ロット追跡の仕組みを外注する前に、何から決めますか?
最初に決めるのは、ロット番号を何の単位で振るかです。この単位が決まらないと、検品記録も材料の紐づけも設計できません。
御社が制作会社に相談する前に自社で決めておくことは、次の3点に集約されます。
- ロット番号を振る単位(所要時間の目安: 現場責任者との打ち合わせ2時間程度)
- たどりたい範囲、つまりどこからどこまでを1本の線でつなぐか(同: 1時間程度)
- 現場で誰がどの端末に入力するか(同: 現場確認を含めて半日程度)
この3点は仕様書の前提になるため、決まっていないまま見積もりを取ると、後から設計のやり直しが発生します。
ロット番号を振る単位を決める
ロット番号は、製造指示の単位、投入した材料の単位、出荷の単位のいずれかに合わせます。3つを混ぜると、1つの番号が複数の意味を持ち、照会の結果が合わなくなります。
つまずきやすい点は、既に現場で使っている番号があるのに、それが台帳に残っていない場合です。伝票の余白に手書きされた番号は、そのままでは単位の定義になりません。まず現物を集めて、実際にどの単位で振られているかを確認します。
たどりたい範囲を1本の線で書き出す
「客先から不具合の連絡が来たときに何を答えるか」を具体的な1文で書き出します。たとえば「出荷したロット番号から、検品の判定結果と、使った材料のロット番号を答える」という形です。
この1文が、必要な紐づけをそのまま示します。線が長くなるほど関係する帳票が増えるため、最初は客先対応に必要な範囲に絞ることをおすすめします。工程別の原価集計まで広げるかどうかは、後述の要件整理の段階で判断します。
現場の入力端末と入力者を決める
入力するのは検査の担当者か、事務で後からまとめて入力するのかを決めます。担当者が現場で入力する前提にすると、画面の設計が変わります。
つまずきやすい点は、手袋を着けたまま操作する工程や、通信が届かない場所がある場合です。その工程では紙に記録して後で入力する運用を残す判断もあり得ます。画面の作り方については後のセクションで詳しく述べます。
なぜ紙と表計算ソフトではロットをたどれなくなるのですか?
記録は取れていても、ロット番号で横断して探せる場所が無いためです。記録する行為と、後からたどれる形にすることは別の問題です。
この差は公的な統計にも表れています。2026年版ものづくり白書によると、製造プロセスでデータを取得している事業者は約7割に達する一方で、そのデータを活用して効果を得ている事業者は約4割にとどまります。同白書は、企業間のデータ連携についても2年前からほぼ進展していないとしています。
出典: 経済産業省・厚生労働省・文部科学省『2026年版ものづくり白書』(2026年5月29日閣議決定)
記録は取れているのに活用できない状態
紙の検査記録も表計算ソフトの一覧も、記録としては成立しています。問題は、ロット番号を手がかりに複数の帳票をまたいで引き当てる手段が無いことです。
ペーパーレス化の進み方にも同じ断絶が見えます。LINE WORKS株式会社が2026年3月に全国の従業員数1,000名未満の製造業225名を対象に実施した調査では、80.9%の企業がペーパーレス化に取り組む一方、「ほぼ全ての業務で、問題なくペーパーレスが完了している」と回答した企業は8.9%でした。着手率と完了率の差が、電子化だけでは終わらないことを示しています。
出典: LINE WORKS株式会社「中小・中堅製造業の紙書類利用・ペーパーレスの取り組みに関する調査」(2026年3月、従業員数1,000名未満の製造業225名)
帳票ごとにファイルが分かれる構造
製造指示書、工程別の作業記録、検査の判定表、材料の受払記録は、それぞれ別の帳票か別のファイルとして作られます。同じロット番号が各帳票に書かれていても、番号で結ばれたデータにはなっていません。
Tebiki株式会社が2024年8月に製造業従事者143名を対象に実施した調査では、優先してデジタル化したい書類として製造日報と検査記録が挙げられています。現場が探しにくさを感じている帳票が、まさにロット追跡の対象と重なります。
出典: Tebiki株式会社の製造業従事者143名への調査(2024年8月)
担当者しか探せない状態になる理由
どの棚のどの綴りに何月分が入っているかは、保管している担当者の記憶にあります。ファイル名の付け方も担当者ごとに違うため、他の人が同じ手順で探せません。
その結果、客先からの問い合わせの対応が特定の人に集まります。必要な記録項目については次のセクションで整理します。
検品記録に持たせる項目は何ですか?
ロット番号、判定結果、判定者、判定日時、検査項目ごとの実測値、使用材料のロット番号の6つが最低限です。この6つが揃っていれば、客先からの問い合わせに画面上で答えられます。
| 項目 | 型 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| ロット番号 | 文字列 | 桁数と付番のルール、重複を許さないこと |
| 判定結果 | 選択式 | 合格、不合格、保留などの選択肢を確定させる |
| 判定者 | 選択式 | 作業者マスタから選ぶ。自由入力にしない |
| 判定日時 | 日時 | 入力時刻の自動記録か、検査時刻の手入力かを決める |
| 検査項目ごとの実測値 | 数値 | 項目名、単位、規格値の上限と下限 |
| 使用材料のロット番号 | 文字列 | 1つの製造ロットに複数の材料が入る場合の持ち方 |
この表をそのまま制作会社に渡せば、データ設計の出発点になります。
判定結果は選択式にして自由記述を分ける
判定結果は選択式にします。自由記述にすると「OK」「良」「合格」が混ざり、後から合格品だけを絞り込めなくなります。
備考として書きたい内容は、判定結果とは別の欄に分けます。判定は集計する項目、備考は読む項目と割り切ると、設計が単純になります。選択肢は後から増やせる形にしておくと、運用中の追加に対応できます。
実測値は数値型で持つ
寸法や重量の実測値は数値型で持ちます。「12.5mm」のように単位まで含めた文字列で保存すると、規格値の上限と下限との比較ができません。
単位は項目のマスタ側に持たせ、入力欄には数値だけを入れます。規格値の上限と下限をマスタに登録しておけば、入力時点で範囲外を知らせることができ、判定の入力漏れも減ります。
つまずきやすい点は、検査項目が製品ごとに違う場合です。項目を固定の列として持つと製品が増えるたびに設計変更が必要になるため、項目を行として持つ形にします。
不適合時の処置を記録の一部にする
不合格と判定した後の処置を、同じ記録の中に持たせます。手直し、選別、廃棄、特別採用のどれを行ったかが残っていないと、客先への回答が判定結果だけで止まります。
処置も選択式にし、処置日と処置後の再判定結果を持たせます。再判定を別の記録として作るか、同じ記録に履歴として積むかは、御社の運用に合わせて決めます。履歴として積む場合は、最新の判定がどれかを示す項目が必要です。
記録の保存期間はどう決めますか?
自社の業種に保存期間の定めがあるかを先に確認します。法令で年数が決まっている場合は、その年数と検索できることが要件になります。
保存期間は、システムの容量と設計に直結する数少ない「外から決まる条件」です。社内の都合で短くできないため、要件定義の最初に確認します。定めが無い業種でも、客先との取引基本契約で保存年数を求められている場合があります。
法令で保存期間が定まる例
食品に関わる製造では、保存期間が法令で明示されています。農林水産省の米トレーサビリティ法の解説によると、指定米穀等を扱う事業者には記録の作成と保存の義務があり、受領や発行した伝票等、作成した記録等は原則3年間保存する必要があります。消費期限が付された商品は3か月、賞味期限が3年を超える商品は5年です。
| 対象 | 保存期間 |
|---|---|
| 原則 | 3年 |
| 消費期限が付された商品 | 3か月 |
| 賞味期限が3年を超える商品 | 5年 |
対象は、対象品目となる米や米加工品の販売、輸入、加工、製造または提供を行うすべての事業者で、生産者、米加工品製造事業者、流通事業者、小売販売事業者、外食事業者が含まれます。農林水産省は、この記録の作成と保存の義務が直罰規定であると説明しています。
出典: 農林水産省「米トレーサビリティ法の概要」「米トレーサビリティ制度Q&A 基本編」
衛生管理の記録も同様です。平成30年6月13日に食品衛生法等の一部を改正する法律が公布され、原則として食品の製造や加工、調理、販売等を行うすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理を実施することとなり、経過措置期間を経て令和3年6月1日から全面施行されました。厚生労働省は、実施したことを記録に残し、それを保存する方法を定めることが必要であるとしています。
出典: 厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」
これらは食品に関わる業種の例です。御社の業種にどの定めがあるかは、所管の官公庁の公表資料で確認することをおすすめします。
保存期間を過ぎた記録の扱いを決める
保存期間を過ぎた記録をどうするかも、あらかじめ決めます。選択肢は、そのまま残す、画面から見えない状態にする、削除するの3つです。
米トレーサビリティ法のように保存期間内の廃棄が問題になる制度がある一方、期間を過ぎた記録を残し続けても不利益は生じないことが多く、実務では残す判断が現実的です。ただし件数が増えると照会の反応が鈍くなるため、直近分と過去分を分けて持つ設計にします。
つまずきやすい点は、期間の起算日です。検査を行った日か、記録が完成した日か、出荷した日かで年数の境目が変わります。起算日を要件として明記しておかないと、後から数え直しが必要になります。