何から始めますか。最初に自社が対象になるかを確認します
最初に確認するのは、自社が努力義務の対象なのか、特定事業者としての義務の対象なのかです。求められる水準が変わるため、ここを先に確定させます。
2025年4月に物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)が施行され、荷主と物流事業者の努力義務および判断基準が始まりました(出典: 国土交通省「物流改正法の施行について」)。規制的措置の重点は、積載効率の向上等、荷待ち時間の短縮、荷役等時間の短縮の3点です(出典: 経済産業省「物流効率化法 解説パンフレット」、国土交通省 物流・自動車局「物流改正法の施行について」)。
努力義務と特定事業者の義務の違い
区分は次のとおりです。
| 区分 | 対象 | 開始時期 |
|---|---|---|
| 努力義務および判断基準 | すべての荷主 | 2025年4月 |
| 特定事業者としての義務 | 一定規模以上の事業者 | 2026年4月 |
特定事業者の指定基準は、前年度の取扱貨物重量が基準重量である9万トンを超えることです。該当する事業者は荷主事業所管大臣へ届出を行い、特定荷主の指定を受けます(出典: 経済産業省「物流効率化法 解説パンフレット」)。指定を受けた事業者には取組状況の報告が求められます。
御社が指定の対象かどうかで、必要な記録と集計の細かさが変わります。努力義務だけの段階なら、自社で改善の判断ができる粒度で足ります。指定を受けるのであれば、報告に使える粒度で集計できる状態が必要です。
対象の判断に必要な自社の数字
判断に使うのは、前年度の取扱貨物重量です。次の順で確認します。
- 前年度に自社が発着させた貨物の重量を集計します(目安1日から3日)。つまずきやすい点は、重量が伝票や請求の単位でしか残っていない場合です。個数や容積で管理していると、重量への換算が必要になります。
- 集計の範囲を決めます(目安半日)。自社が荷送人となる貨物と、荷受人となる貨物のどちらも含まれるかを確認してください。
- 9万トンとの差を見ます(目安1時間)。基準に近い場合、翌年度に該当する可能性があるため、記録の仕組みは報告に耐える粒度で作っておくほうが安全です。
1点目に時間がかかります。重量の集計そのものが今回の仕組みで扱う対象になる場合もあるため、この確認の段階で「何を記録として持てていないか」が分かります。
実装側の目線で1つ補足します。対象かどうかが微妙な御社は、努力義務向けの簡易な仕組みを作ってから作り直すより、最初から報告に耐える記録の粒度で作ったほうが総額は安くなります。粒度を後から細かくするには、記録の項目を増やして過去分を埋め直す作業が発生します。
何をどう記録するかは、次のセクションで扱います。
荷待ち時間と荷役時間は、何をどう記録しますか
記録するのは、車両が到着した時刻、荷役を始めた時刻、終わった時刻、出発した時刻の4点です。この4点から荷待ち時間と荷役時間が計算で出ます。時間そのものを人が入力する形にはしません。
理由は、時間を人が計算して入力すると、定義のずれと計算の誤りが同時に入るためです。時刻だけを記録し、時間は集計側で出します。
4つの時刻から何が計算できるか
4点の時刻から、次のように計算します。
| 記録する時刻 | ここから計算する時間 |
|---|---|
| 到着時刻 | 到着から荷役開始までが荷待ち時間です |
| 荷役開始時刻 | 荷役開始から終了までが荷役時間です |
| 荷役終了時刻 | 荷役終了から出発までは、待機や書類手続きの時間です |
| 出発時刻 | 到着から出発までが構内の滞留時間の全体です |
国土交通省の調査では、トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間は10時間13分で、このうち荷待ち・荷役等時間は2時間2分でした。前回調査の3時間18分から1時間16分短縮しており、荷待ち時間だけで見ると1時間28分から1時間00分へ縮小しています(出典: 国土交通省「トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間に関する調査結果の公表」)。
公表値が荷待ちと荷役等を分けて示しているため、御社の記録も同じように分けて出せる形にします。合算した1つの数値だけを持つと、どちらの短縮に効いたのかが説明できません。
誰がどの時点で入力するか
入力する人と手段を、時刻ごとに決めます。
- 到着時刻です(守衛所での受付、または運転者の申告)。入力の遅れがそのまま荷待ち時間の誤差になるため、到着の判定を誰が行うかを1つに決めてください。
- 荷役開始時刻です(バース担当者、または運転者)。つまずきやすい点は、バースへの誘導と荷役の開始を同じ時刻として扱ってしまうことです。誘導後に待たされる場合、荷待ちが荷役時間に紛れます。
- 荷役終了時刻です(バース担当者)。検品や積み付けの完了をもって終了とするのか、区切りを決めておきます。
- 出発時刻です(守衛所、または運転者)。書類の受け渡しが残る場合、出発は書類完了後になります。
4点すべてを1人が入力する形にすると、忙しい時間帯に記録が止まります。入力する人を分け、それぞれの持ち場で1タップで済む形にしてください。
記録の項目としては、上の4つの時刻に加えて、運送事業者名、車番、便の区分、貨物の重量または個数を持たせます。重量は、前のセクションで触れた対象判断の集計にも使えます。
なお、この記録を何と比べるかについては、注意が必要です。次のセクションで扱います。
公的な調査では、荷待ちと荷役にどのくらいかかっていますか
国土交通省の調査結果が公表されており、自社の記録と比べる基準として使えます。自社の実績が分からない段階では、この数値を要件の設計の目安に使えます。
ただし、比べる前に定義を合わせる必要があります。定義が違えば、システムが記録した時間と公表値は比較できません。
公表されている時間の水準
公表されている数値は次のとおりです。
| 項目 | 今回調査 | 前回調査 |
|---|---|---|
| 1運行当たりの平均拘束時間 | 10時間13分 | 記載の対象は荷待ち・荷役等時間です |
| 荷待ち・荷役等時間 | 2時間2分 | 3時間18分 |
| 荷待ち時間のみ | 1時間00分 | 1時間28分 |
荷待ち・荷役等時間は前回調査の3時間18分から1時間16分短縮しており、荷待ち時間だけで見ると1時間28分から1時間00分へ縮小しています(出典: 国土交通省「トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間に関する調査結果の公表」)。
この数値は、要件を決める段階で2つの使い方ができます。1つは、記録の粒度の判断です。1時間前後の値を扱うのであれば、分単位の記録が必要です。もう1つは、集計の区切りの判断です。月次の平均だけでなく、時間帯別や運送事業者別に出せると改善の余地が見えます。
自社の記録と比べるときの注意
自社の実績をこの水準と比べる場合は、国土交通省の「トラック輸送状況の実態調査」で示されている調査の目的と留意点を確認し、どこからどこまでを荷待ちとするかの定義を合わせる必要があります。
具体的に確認するのは次の3点です。
- 荷待ちの起点です。構内に入った時刻なのか、受付を済ませた時刻なのか、指定時刻なのかで値が変わります。
- 荷役等時間に含まれる作業の範囲です。検品や仕分けを含むのか、積み下ろしだけかを確認します。
- 調査の対象です。業種や車格の構成が自社と違えば、平均値の比較には限界があります。
実装側の注意点を1つ挙げます。要件書には「国土交通省の公表値と比較できる定義で集計する」ではなく、自社で採用する定義を文章で書いてください。公表値の定義は調査ごとに変わる可能性があり、システムの仕様を外部の文書に依存させると、調査が更新されたときに仕様が揺れます。自社の定義を固定し、比較するときに換算する形が保守しやすくなります。
御社が特定荷主の指定を受ける場合、報告に使う数値は自社の定義で一貫していることが重要です。年度をまたいで定義を変えると、改善したのか定義が変わったのかが説明できなくなります。定義を変更した場合は、変更日と変更内容を記録に残す仕組みにしてください。
機能面で何を決めるかは、次のセクションで扱います。
記録の仕組みを外注するとき、機能面で何を決めますか
決めるのは、入力の手段、記録の単位、集計の出力、そして修正の履歴の4点です。入力の手段を現場が使える形にできるかが成否を分けます。
前のセクションまでで、記録する項目と定義は決まっています。ここから先は、それを誰がどう入れて、どう出すかの設計です。
入力の手段の選び方
候補は次のとおりです。現場の環境で選びます。
| 手段 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 守衛所や事務所の端末 | 受付が1か所に集約されている | 荷役の開始と終了は別の場所で発生します |
| バース担当者のスマートフォン | 担当者が複数のバースを回る | 端末の配布と、紛失時の扱いを決めます |
| 運転者のスマートフォン | 自社で端末を配れない | 運送事業者ごとの協力が前提になります |
| QRコードの読み取り | 車番や便の入力を省きたい | 事前に便の情報を登録しておく必要があります |
選ぶときの基準は、その時刻が発生する場所に入力の手段があるかどうかです。場所が離れていると、後でまとめて入力する運用になり、時刻が実態から外れます。
手順は次のとおりです。
- 4つの時刻がそれぞれどこで発生するかを図にします(目安半日)。つまずきやすい点は、荷役の開始と終了が同じ場所で発生しない現場があることです。
- 場所ごとに使える手段を決めます(目安半日)。通信が届かない構内がある場合、その場所は別の手段にします。
- 1回の入力にかかる操作の回数を数えます(目安1時間)。3回を超えると、忙しい時間帯に記録が飛びます。
集計と報告用の出力の形
出力として決めるのは次の4つです。
- 期間を指定した平均と中央値(荷待ち、荷役、滞留の全体をそれぞれ)
- 時間帯別と曜日別の分布
- 運送事業者別と便別の内訳
- 重量または個数の合計(対象判断の集計に使います)
平均だけでなく分布を出せる形にしてください。平均が短くても、特定の時間帯だけ長い場合があります。改善の打ち手は、その時間帯の便の組み替えになります。
報告に使う出力は、画面で見るだけでなくファイルとして取り出せる形にします。提出の様式は制度側の運用で変わるため、画面の表示を様式に合わせ込む設計にしないほうが安全です。
記録の修正と履歴の残し方
記録は必ず直す必要が出ます。入力の漏れ、端末の時刻のずれ、便の取り違えが起きます。
決めるのは次の3点です。
- 誰が修正できるかです。現場の担当者が直せる範囲と、管理者だけが直せる範囲を分けます。
- 修正の履歴の残し方です。誰が、いつ、どの項目を、どの値からどの値に変えたかを項目単位で残します。更新日時だけでは後から説明できません。
- 締めのタイミングです。ある日付以降は修正できない状態にするか、締め後の修正は管理者のみとするかを決めます。
実装側から見て手戻りが大きいのは2点目です。履歴を後から追加するには、データの構造を変える作業が必要になります。最初から項目単位で残す設計にしてください。報告の数値に対して「なぜこの値なのか」を問われたときに、説明できるかどうかがここで決まります。
非機能の要件については、次のセクションで扱います。