ホームページリニューアルの稟議は、何から書き始めますか?
現状の数字を1枚にまとめることから始めます。目的や熱意ではなく、今の状態を示す数字が出発点です。
決裁者が判断できないのは、金額が高いからではありません。今のままだと何が起きるのかが分からないからです。数字は、その空白を埋めるために使います。
稟議書に必要な5つの構成
稟議書は、次の5つの要素で組み立てます。
- 現状 (今のサイトの数字と、そこから起きている不都合)
- 目的 (リニューアルで何を変えるか。1つか2つに絞る)
- 費用 (見積もりの内訳と、補助金を使う場合の自己負担額)
- 効果 (何がどれだけ変わるか。測り方も併記する)
- 期間と体制 (いつ着手し、誰が社内の窓口になるか)
つまずきやすいのは2番目です。目的を「集客の強化とブランディングと採用」のように並べると、効果の測り方が定まりません。1つか2つに絞ると、あとの項目が自然に決まります。
書き上げる所要時間の目安は、数字が手元にある状態で2時間ほどです。数字の収集を含めると、1週間は見ておいてください。
書き始める前に集める3つの数字
集めるのは、次の3つです。
- 問い合わせの件数 (直近12か月分を月別に)
- サイトの訪問数と、問い合わせページまで進んだ人の数
- サイトに関わる社内の作業時間 (更新の依頼、修正の待ち時間)
1番目は、営業部門やメールの受信箱から数えられます。2番目は、Googleアナリティクスの管理画面で確認します。3番目は、担当者への聞き取りで構いません。
実務でつまずきやすいのは2番目です。計測ツールのデータには保持期間があり、古い分は後から取り出せません。稟議を出す前に、必要な期間の数字を書き出して保存しておいてください。保持期間の扱いは後述します。
この3つが揃えば、稟議書の現状の欄は埋まります。数字が揃っていない場合は、その事実自体を現状として書いてください。測れていないことも、投資の理由になります。
費用対効果は、売上以外の何で説明できますか?
問い合わせ数、採用の応募数、社内の作業時間の3つで説明できます。売上への寄与だけに絞ると、リニューアル以外の要因が混ざり、根拠が弱くなります。
サイトの改修から売上までの間には、営業の活動や景気の変動が挟まります。だからこそ、サイトが直接動かせる数字まで戻して説明します。
効果を分解する3つの軸
次の表のように、軸ごとに測る数字と、その数字が動く理由を並べます。
| 効果の軸 | 稟議に載せる数字 | 変わる理由 |
|---|---|---|
| 問い合わせ | 月あたりの問い合わせ件数、フォームの到達率 | 導線と入力項目の見直しで、途中の離脱が減る |
| 採用 | 応募数、求人ページの閲覧数 | 募集要項と働く環境の情報を自社サイトに置ける |
| 社内の作業 | 更新の依頼から公開までの時間、月あたりの依頼件数 | 担当者が管理画面から直接更新できる |
3つすべてを書く必要はありません。自社で数えられる軸だけを選んでください。数えられない軸を書くと、報告の段階で困ります。
つまずきやすいのは、目標値の置き方です。「問い合わせを2倍にする」と書くと、達成できなかったときに次の投資が通りません。現状の数字に対して、何がどれだけ減るか、増えるかを控えめに書くほうが、後の報告が楽になります。
社内の作業時間を金額に換算する
作業時間は、金額に直すと決裁者に伝わりやすくなります。手順は次のとおりです。
- サイトに関わる作業を書き出す。更新の依頼、原稿の受け渡し、確認、公開後の修正まで含めます。所要時間の目安は、担当者への聞き取りで1時間です。
- 作業ごとに、月あたりの発生回数と1回の所要時間を記入します。つまずきやすいのは、待ち時間を入れ忘れる点です。制作会社へ依頼してから反映されるまでの待ちも、業務の停滞として記録してください。
- 合計時間に、社内の時間単価をかけます。人事部門が持つ単価があればそれを使い、無ければ人件費の総額から概算で構いません。
- リニューアル後に減る見込みの時間を、同じ計算式で出します。
この計算は、前提を書き添えることが重要です。単価をいくらで置いたか、どの作業を対象にしたかを注記しておくと、金額の妥当性を問われたときに議論が早く終わります。
なお、費用の側の相場と自己負担額は後述します。ここでは効果の側だけを整理してください。
同業と比べる根拠には、どの統計を使いますか?
総務省の通信利用動向調査を使います。企業のホームページ開設率が産業分類別に公表されており、自社の業種の水準を示せます。
この統計を使う利点は、出所が政府統計である点です。制作会社の調査だけを根拠にすると、発注先に都合のよい数字だと受け取られることがあります。
開設率の全体と業種別の水準
令和6年通信利用動向調査によると、自社のホームページを開設している企業の割合は93.2%です。前年から0.2ポイント増えています。
産業分類別の水準は次のとおりです。
| 産業分類 | ホームページ開設率 (令和6年) |
|---|---|
| 情報通信業 | 98.6% |
| 金融・保険業 | 97.0% |
| 不動産業 | 96.7% |
| 建設業 | 95.4% |
| 卸売・小売業 | 95.3% |
出典: 総務省『令和6年通信利用動向調査の結果』 (https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000178.html、2026年9月時点)
稟議書では、この数字を「持っているかどうか」の話で終わらせないでください。開設率が9割を超える業種では、サイトの有無ではなく中身で比較されます。自社のサイトが何年前の状態かを併記すると、比較の意味が伝わります。
統計を使うときの注意点
注意点は3つあります。
- 調査の対象範囲を確認する。調査年や集計の区分によって、対象となる企業の規模が異なります。つまずきやすいのは、規模を限定した数値を全企業の数値として引用してしまう点です。
- 開設率と活用度を混同しない。開設率は、サイトを持っている企業の割合です。更新の頻度や成果までは示しません。
- 出典と調査年を必ず添える。稟議書の数字に出典が無いと、決裁の場で確認の作業が発生し、判断が翌月に持ち越されます。
引用の作業そのものは短時間で終わります。所要時間の目安は、報道資料から必要な数値を抜き出して表にするまで30分ほどです。
なお、自社サイトの現在の状態を数字で示す方法は次のセクションで扱います。統計は外部との比較、次の指標は自社の現状という役割の分担です。
改善の目標値は、どの基準で置きますか?
GoogleのCore Web Vitalsの基準を使います。公式に数値が定められているため、改善前と改善後を同じ物差しで比較できます。
自社で目標値を作ると、その水準が妥当かどうかの議論が発生します。公式の基準を引けば、議論は現状値との差の話だけで済みます。
LCP、INP、CLSの基準
Googleが良好としている基準は次の3つです。
| 指標 | 何を測るか | 良好の基準 |
|---|---|---|
| LCP (最大コンテンツの描画) | 主要な内容が表示されるまでの速さ | 2.5秒以内 |
| INP (次のペイントまでのインタラクション) | 操作に対する反応の速さ | 200ミリ秒以下 |
| CLS (累積レイアウトシフト) | 表示中のずれの少なさ | 0.1以下 |
出典: web.dev『Web Vitals』 (https://web.dev/articles/vitals、2026年9月時点)
判定は、実際の利用者のデータの75パーセンタイルで行われます。平均値ではありません。
出典: web.dev『How the Core Web Vitals metrics thresholds were defined』 (https://web.dev/articles/defining-core-web-vitals-thresholds、2026年9月時点)
実務でつまずきやすいのは、この見方の違いです。平均値で「2.4秒なので基準内」と稟議に書くと、公開後の報告で数字が合わなくなります。記録する段階から75パーセンタイルの値で揃えてください。
現状値をどこで測るか
現状値は、リニューアルに着手する前に記録します。後から遡れないためです。
- Search Consoleで、表示回数とクリック数を書き出します。検索パフォーマンスで遡れる期間は最長16か月です。画面上の操作にもAPIにも同じ制限がかかります。
- Googleアナリティクス4のデータ保持期間の設定を確認します。既定値は2か月で、無料版の上限は14か月です。既定のままだと、2か月より前の状態を後から確認できません。
- Core Web Vitalsの現状値を、3指標とも記録します。所要時間の目安は、画面の数値を控えるだけなら30分ほどです。
出典: Google『検索パフォーマンス レポート (検索結果): 概要と基本設定』(https://support.google.com/webmasters/answer/7576553?hl=ja)、Google『データ保持期間』(https://support.google.com/analytics/answer/7667196?hl=ja) (いずれも2026年9月時点)
2番目のつまずきは、設定を変えても過去には遡れない点です。保持期間を延ばした時点より前のデータは戻りません。稟議を書く前の段階で設定を確認しておくと、公開後の報告で困りません。
記録した数字は、稟議書の現状の欄と、承認後の報告の両方で使います。報告の準備は後述します。