旧サイトを手直しして使うには、まず契約書のどこを見ますか?
最初に見るのは著作権の譲渡条項です。第27条と第28条の権利が譲渡の対象として個別に書かれているかどうかを確認します。
この順序には理由があります。著作権法 (昭和45年法律第48号) 第61条第2項は、譲渡契約でこの2つの条文の権利が特掲されていないとき、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。特掲が求められている条文は第27条と第28条の2条です (出典: e-Gov法令検索「著作権法 (昭和四十五年法律第四十八号)」)。
確認の順序は、譲渡条項、人格権の条項、納品物の範囲の3か所
契約書を開いたら、次の3か所を上から順に見ます。
- 著作権の譲渡条項: 第27条と第28条が名指しで書かれているかを見ます。所要時間の目安は5分です。つまずきやすい点は、「著作権 (著作権法第27条および第28条の権利を含む)」のような括弧書きで書かれている場合に見落とすことです。
- 著作者人格権の条項: 人格権について何か書かれているかを見ます。第59条は著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないと定めているため、譲渡条項だけでは足りません (出典: e-Gov法令検索「著作権法」)。改変の可否に直接関わる同一性保持権は第20条第1項に定められています。
- 納品物の範囲: デザインデータ、原稿、画像、プログラムのうち、どこまでが引き渡されるのかを見ます。権利があっても元データが無ければ手直しは進みません。
著作者が誰になるかは第15条に定めがあります。第15条第2項は、法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、別段の定めがない限りその法人等とすると定めています (出典: e-Gov法令検索「著作権法」)。つまり制作会社の従業員が作ったものは、原則としてその制作会社が著作者です。
手元に契約書が無い場合の探し方
契約書が見つからないことは珍しくありません。その場合は、次の資料から当時の取り決めをたどります。
- 発注時の見積書と注文書 (権利の帰属が注記されている場合があります)
- 制作会社から届いた基本契約書や業務委託契約書のメール添付
- 制作会社の利用規約や取引条件のページ
いずれも見つからない場合は、制作会社へ契約書の控えを依頼します。改変してよいかを口頭で確認するだけでは、後で判断の根拠が残りません。実務では、権利の範囲を1枚の覚書にして残すところまで進めます。具体的な進め方は後述します。
「著作権を譲渡する」とだけ書いてある契約では何が足りませんか?
翻案に関する権利が制作会社側に留保されたものと推定されます。そのため、手直しの可否が契約書だけでは確定しません。
足りないのは「特掲」です。これは、譲渡する権利を条文の番号まで挙げて個別に書くことを指します。
第61条第2項の特掲とは何か
著作権法 (昭和45年法律第48号) 第61条第1項は、著作権はその全部または一部を譲渡することができると定めています。続く第61条第2項は、譲渡契約において第27条または第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないとき、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています (出典: e-Gov法令検索「著作権法 (昭和四十五年法律第四十八号)」)。
特掲が求められている条文は第27条と第28条の2条です。つまり「著作権の全部を譲渡する」という文言でも、この2条を挙げていなければ足りません。
なお第61条第2項については、文化審議会著作権分科会の報告書で、この規定の存在が譲渡契約の解釈について事後に当事者間のトラブルを招く原因になりかねないという問題が挙げられています。あわせて、第27条および第28条の権利のみに特掲が求められているのは制度上アンバランスであるとも指摘されています (出典: 文部科学省「文化審議会著作権分科会 報告書」)。制度側の議論を待つのではなく、契約の文言で取り決めておくことが実務上の備えになります。
特掲が必要な2つの条文の中身
2つの条文は、手直しの場面にそれぞれ異なる形で関わります。
| 条文 | 権利の内容 | 手直しで関わる場面 |
|---|---|---|
| 第27条 | 翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他翻案する権利を著作者が専有する | 既存のデザインや原稿に手を入れて作り直すとき |
| 第28条 | 二次的著作物の原著作物の著作者が、その利用に関し同一の種類の権利を専有する | 作り直したページを公開して使い続けるとき |
出典はいずれもe-Gov法令検索「著作権法」です。
実務でつまずきやすいのは第28条です。第27条だけを特掲した契約を見かけますが、それでは作り直したあとの利用について原著作者の権利が残ります。手直しして公開するところまでを想定するなら、2条をそろえて確認します。
契約書に第27条と第28条が書かれていても、それだけで自由に改変できるとは限りません。理由は次のセクションで扱います。
著作権を全部譲り受けても、改変できない場合がありますか?
あります。著作者人格権は譲渡できないため、改変の扱いは譲渡条項とは別に取り決める必要があります。
著作権と著作者人格権は別の権利です。前者は譲渡の対象になりますが、後者は作った本人に残ります。
同一性保持権と譲渡条項の関係
著作権法 (昭和45年法律第48号) 第59条は、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡することができないと定めています。改変そのものに関わるのは第20条第1項で、著作者はその著作物およびその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとすると定めています (出典: e-Gov法令検索「著作権法 (昭和四十五年法律第四十八号)」)。
ここから、譲渡条項だけでは足りない理由が見えます。第27条と第28条を特掲して著作権を譲り受けても、第20条第1項の同一性保持権は移りません。
2つの権利の違いを整理します。
| 権利 | 譲渡できるか | 根拠条文 | 手直しへの影響 |
|---|---|---|---|
| 著作権 (翻案に関する権利を含む) | できる。ただし第27条と第28条は特掲が必要 | 第61条第1項、第61条第2項 | 特掲があれば手直しの権利を得られます |
| 著作者人格権 (同一性保持権を含む) | できない | 第59条、第20条第1項 | 譲渡では解決せず、別の取り決めが必要です |
出典はいずれもe-Gov法令検索「著作権法」です。
人格権の不行使をどう扱うか
実務では、著作者人格権を行使しないという趣旨の条項を契約に置く扱いが広く見られます。人格権そのものは移らないため、行使しない約束として整理する考え方です。
この条項を置くときに確認したい点を挙げます。
- 誰が約束するのか: 権利は制作に携わった個人に属します。制作会社だけの約束で足りるのか、個人からの同意も必要かを確かめます。所要時間の目安は、制作会社への確認を含めて2日です。
- 何に対する不行使なのか: 対象を「本件成果物」とだけ書くと範囲が曖昧になります。デザイン、原稿、画像のどこまでを含むのかを書き出します。つまずきやすい点は、納品後に追加制作した分が対象外になることです。
- 誰に対しても有効なのか: 将来、御社が別の制作会社に手直しを頼む場合まで含むのかを確認します。
契約の文言そのものの詰め方は、顧問弁護士または専門家に相談してください。本記事は条文の位置と確認の順序を示すものです。具体的な手順は後述します。
そもそも誰が著作者になりますか?
制作会社の従業員が職務上作成したものは、原則としてその制作会社が著作者となります。御社が費用を負担していても、それだけで著作者にはなりません。
誰が著作者かは、譲渡の相手を特定するための出発点です。
職務著作の定め
著作権法 (昭和45年法律第48号) 第15条には職務著作の定めがあります。第15条第1項は、プログラムの著作物を除く著作物について、法人等の発意に基づき業務に従事する者が職務上作成し、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものを対象としています。第15条第2項は、法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とすると定めています (出典: e-Gov法令検索「著作権法 (昭和四十五年法律第四十八号)」)。
ホームページの場合、デザインや原稿と、動作するプログラムで扱いが分かれます。
| 成果物 | 根拠条文 | 著作者となる者 |
|---|---|---|
| デザイン、原稿、写真などプログラム以外 | 第15条第1項 | 法人等の名義で公表されるものは、その法人等 |
| テーマやスクリプトなどプログラムの著作物 | 第15条第2項 | 別段の定めがない限り、その法人等 |
出典はいずれもe-Gov法令検索「著作権法」です。なお、プログラムの著作物の権利の詰め方はシステム開発の契約で論点が増えます。詳しくは「システム開発の外注|ソースコード著作権の決め方」をご覧ください。
外注先がさらに外部のデザイナに委託していた場合
実務でつまずきやすいのはここです。制作会社が社内で完結していれば相手は1社ですが、一部を外部のデザイナやライタに委託していると、その部分の著作者は別になります。
確認の進め方を示します。
- 制作体制を聞く: 誰が何を作ったのかを、デザイン、原稿、写真、プログラムの区分で挙げてもらいます。所要時間の目安は1時間の打ち合わせ1回です。
- 再委託分の権利の流れを確かめる: 外部の担当者から制作会社へ権利が移っているか、第27条と第28条の特掲があるかを確認します。つまずきやすい点は、制作会社と外部担当者の間の契約に特掲が無く、御社との契約だけ整っている状態です。この場合、御社に権利が届きません。
- 素材の扱いを分けて確認する: 購入した写真やフォントは、提供元の許諾の範囲で使う前提です。素材の利用範囲は「ホームページ制作の著作権|写真素材の利用範囲と契約」で扱います。
外注の契約書の書式としては、IPA (独立行政法人情報処理推進機構) が「情報システム・モデル取引・契約書 (第二版)」を公開しています。再委託を含む体制を書面で確認する際の参考になります。