建設業の請求書受領の電子化は何から始めますか?
届いた請求書の受け取り口を1つに集約することから始めます。仕組みを選ぶ前に、どの経路で届いているかを洗い出すのが先です。
この順番を逆にすると失敗します。システムを先に決めても、紙とメールと専用サイトに請求書が散っていれば、経路ごとに別の手作業が残るだけです。
建設業では、この手作業がまだ広く残っています。インフォマート「建設業のバックオフィス業務の実態調査」では、建設土木業界の6割を超える企業が、いまだに手作業で請求書の転記を行っていると報告されています。同社の2024年2月の調査では、請求書の受け渡しを紙で行っていると回答した企業が約3割あり、工事請負契約書や作業日報、図面などの各種書類のうち、請求書が紙での受け渡しが最も多い書類とされています。
出典: インフォマート「建設業のバックオフィス業務の実態調査」(デジコン掲載、https://digital-construction.jp/news/747 )、BtoBプラットフォーム × 建設業「建設業におすすめの請求書電子化システムは?」(2024年2月調査、https://www.infomart.co.jp/trade/construction/column/blog-4 )
つまり御社で紙が残っていても、業界の中で遅れているわけではありません。ただし、電子でやり取りした分については保存の義務が生じます。この点は次の見出しで扱います。
いま請求書が届いている経路を洗い出す
最初の作業は、直近1か月に届いた請求書を経路ごとに数えることです。
- 郵送で届いた紙の請求書を数えます。所要時間の目安は半日です。
- メールに添付されたPDFを数えます。担当者ごとの受信箱に分散している点がつまずきやすい箇所です。現場監督が直接受け取っている分が漏れやすくなります。
- 取引先の専用サイトからダウンロードする分を数えます。ログイン情報を持つ人しか把握していない場合が多く、洗い出しから漏れます。
- FAXで届く分を数えます。複合機の受信履歴から件数を拾えます。
- 手渡しで受け取る分を数えます。所要時間の目安は1日です。現場で受け取って後日持ち帰る運用は、記録が残らないため担当者への聞き取りが必要です。
件数だけでなく、工事の数と取引先の数も数えておきます。後の要件定義で、工事番号の付け方を決める材料になります。
受け取り口を1つに決める
経路が見えたら、請求書を受け取る窓口を1つに決めます。専用のメールアドレスを1つ作り、そこへ集約する方法が最も着手しやすいです。
決めることは3点です。
- 集約先をどこにするか(専用のメールアドレス、または請求書を受け取るシステム)
- 紙で届いた分をどう扱うか(誰がいつスキャンするか)
- 取引先へいつ、どう案内するか(次回の請求から切り替えるのが現実的です)
つまずきやすいのは3点目です。取引先の事情で紙のままになる先は必ず残ります。全社を一度に切り替える前提で計画すると、例外の扱いが決まらず運用が止まります。紙で残る先を最初から見込んでおき、その分だけスキャンして同じ場所に置く形にしておくと、後の工程が1本にまとまります。
電子で受け取った請求書は、法令上どう保存する必要がありますか?
電子でやり取りした請求書は電子データのまま保存する義務があり、改ざん防止の措置、ディスプレイ等の備付け、日付と金額と取引先での検索の3つが原則のルールです。
電子取引データとは、紙でやりとりしていた場合に保存が必要な書類に相当する電子のデータです。国税庁の資料では、対象として注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、請求書などが挙げられています。保存が必要になるのは請求書だけではない点が明記されています。対象は、申告所得税・法人税に関して帳簿書類の保存義務があるすべての者です。
| 原則のルール | 内容 |
|---|---|
| 1. 改ざん防止 | 改ざん防止のための措置をとること |
| 2. 備付け | 保存データを確認するディスプレイやプリンタ等を備え付けること |
| 3. 検索 | 日付・金額・取引先の3つの要素で検索できること |
出典: 国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?」(令和6年11月、https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0024011-003_01.pdf )
改ざん防止の措置は4つから選べます
改ざん防止の措置は、4つの選択肢から選べます。専用のシステムを導入しない方法も認められています。
- タイムスタンプが付与されたデータを受領する
- 受領したデータにタイムスタンプを付与する
- 訂正・削除の履歴が残るシステム等で授受・保存する
- 改ざん防止のための事務処理規程を策定、運用、備付けする
4番目の事務処理規程については、国税庁がサンプルをWordファイルで公表しています。つまずきやすいのは、規程を作っただけで終わってしまう点です。運用と備付けまでが要件に含まれます。
検索の要件は索引簿やファイル名でも満たせます
検索の要件も、簡易な方法での対応が認められています。
- 表計算ソフト等で索引簿(連番、日付、金額、取引先、備考)を作成して検索する
- 日付・金額・取引先の順で規則性をもったファイル名を付け、特定のフォルダに集約する
ただし原則としては、日付または金額での範囲指定検索と、2つの要素を組み合わせた検索ができることが求められます。これに代えて、税務調査等の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにする方法も認められています。
売上高が基準を下回る場合の扱い
基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の場合は、検索の要件を満たす必要がありません。データのダウンロードの求めに応じられるようにしておくことが条件です。
対応が間に合わない場合の猶予措置もあります。所轄税務署長が相当の理由があると認める場合で、かつ税務調査等の際にデータのダウンロードの求めと、書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じられるようにしている場合は、データを保存しておくだけで差し支えないとされています。相当の理由には、システム整備が間に合わない、資金不足、人手不足といった幅広い理由が認められると説明されています。
なお令和4年度税制改正で措置された宥恕措置は、適用期限である令和5年12月31日をもって廃止されています。猶予措置とは別のものですので、混同しないようご注意ください。
紙とPDFが混在すると、なぜ転記が減らないのですか?
受け取り口が分かれたままだと、経路ごとに別の手作業が残るためです。電子化に着手しても完了しない状態は、建設業でも製造業でも共通して起きています。
理由は単純です。紙は紙の処理、PDFはPDFの処理、専用サイトはログインしてのダウンロードという具合に、経路ごとに手順が増えます。経路が5つあれば、担当者は5通りの手順を覚えることになります。システムを1つ入れても、この分岐が残っていれば作業量は下がりません。
着手率と完了率には差があります
着手した企業の多さと、実際に紙が無くなった企業の少なさには、はっきりした差があります。
| 業種 | ペーパーレス化に着手 | ほぼ全ての業務で完了 |
|---|---|---|
| 中小・中堅製造業 | 80.9% | 8.9% |
| 流通業 | 約7割 | 9.7% |
出典: LINE WORKS株式会社「中小・中堅製造業の紙書類利用・ペーパーレスの取り組みに関する調査」(全国の従業員数1,000名未満の製造業225名、2026年3月22日から3月30日実施、https://line-works.com/pr/20260601/ )、同社の流通業を対象とした調査(740人、https://line-works.com/pr/20260709/ )
流通業の調査では、過去1年間で紙書類の使用量がほとんど減っていないと分類される企業が46.3%ありました。着手から完了までの間に、多くの企業が留まっていることがわかります。
紙が残ることの負担も測られています。Tebiki株式会社「ペーパーレス化推進状況の実態調査」(製造業従事者143名、2024年8月19日から8月23日実施)では、紙文書の使用によって生産性が下がっていると感じている人が83%、紙文書の処理に月6時間以上を使っている人が66%でした。
出典: Tebiki株式会社「ペーパーレス化推進状況の実態調査」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000044.000096998.html )
月6時間は、経理担当者1人分の1日弱に相当します。工事別の原価を締める時期に集中すると、締めそのものが遅れます。
建設業で請求書が紙のまま残る実態
建設業では、請求書が特に紙で残りやすい書類です。インフォマートの2024年2月の調査では、請求書の受け渡しを紙で行っていると回答した企業が約3割あり、工事請負契約書や作業日報、図面などの各種書類のうち、請求書が紙での受け渡しが最も多い書類とされています。
出典: BtoBプラットフォーム × 建設業「建設業におすすめの請求書電子化システムは?」(2024年2月調査、https://www.infomart.co.jp/trade/construction/column/blog-4 )
理由は、請求書が自社だけで完結しない書類だからです。社内の書類は自社の判断で電子に切り替えられますが、請求書は送ってくる側の運用に左右されます。だからこそ、取引先を変えるより先に、自社側の受け取り口を1つにまとめる順番が効きます。紙で届く分もスキャンして同じ場所に集めれば、その後の処理は1通りで済みます。
工事別原価につなぐために、外注前に決める要件は?
工事番号の付け方、原価科目への割り当てルール、会計ソフトへ渡すデータの形式、この3点を先に決めます。これが決まっていないと開発が止まります。
3点とも、システムで決めることではなく御社の業務で決めることです。ここが曖昧なまま開発に入ると、画面はできても運用に乗りません。
工事番号の体系と付与のタイミング
工事番号は、請求書と原価を結びつける唯一の鍵です。まず次の3つを文書にします。
- 番号の体系(受注年、現場、枝番のどれを含めるか)。所要時間の目安は半日です。
- 番号を付けるタイミング(見積時か、受注時か、着工時か)。つまずきやすいのは、見積段階の仮番号が受注後に変わる運用です。請求書が仮番号で届くと紐付けが外れます。
- 番号を誰が取引先へ伝えるか(発注書に記載するのが確実です)。
請求書に工事番号が書かれていない場合、社内の誰かが推測で割り当てることになります。この推測が入ると、原価の精度が落ちます。発注書へ工事番号を印字し、請求書にも記載を依頼する運用を先に整えてください。
原価科目への割り当てルール
次に、請求書の明細をどの原価科目に振るかを決めます。材料費、労務費、外注費、経費といった区分です。
決めるべきは、次の優先順位です。
- 取引先ごとに固定できる科目はあるか(資材業者は材料費に固定できる場合が多いです)
- 明細の品名から判断が必要な科目はどれか
- 判断がつかない明細を、誰がどの画面で決めるか
3番目を決めておかないと、判断待ちの明細が溜まります。未割当の一覧を1画面で見られるようにし、担当者がまとめて処理する形が現実的です。自動で全件を振り分ける前提にすると、精度が出ない部分で運用が止まります。
会計ソフトへ渡すデータの形式と連携方法
最後に、会計ソフトへ何をどう渡すかを決めます。確認する項目は次の3つです。
| 決める項目 | 確認先 | 注意点 |
|---|---|---|
| 取込可能なファイル形式 | 会計ソフトの提供元 | 仕訳の取込仕様書を入手します |
| 必須項目 | 同上 | 補助科目や部門の必須有無を確認します |
| 取込の単位 | 自社の経理 | 日次か月次かで設計が変わります |
つまずきやすいのは、取込仕様書を見ずに開発を始めることです。会計ソフト側の必須項目が後から判明すると、割り当てルールの設計まで戻ることになります。発注前に仕様書を取り寄せ、外注先へ渡してください。連携方法の違いは後述します。