工事の請負契約は電子契約にできる?
できます。建設業法第19条第3項が、書面に代えて電磁的措置による締結を認めています(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
ただし無条件ではありません。相手方の事前承諾と、技術的基準を満たす方式の2つが条件になります。
電子データでの交付が可能になったのは2020年の建設業法改正です(出典: 建設工事請負契約書の記載事項と建設業法第19条の解説)。導入してよいかという段階の議論は、すでに終わっています。
原則は書面、電子契約は例外という構造
条文の立て方を押さえておくと、要件の意味が分かりやすくなります。
建設業法第19条第1項は、請負契約の内容を書面に記載することを求めています。そのうえで署名または記名押印をして、相互に交付することまで定めています。
同条第3項は、その例外として電子情報処理組織を使用する方法などを認めるという形です。つまり電子契約は原則ではありません。条件を満たしたときに限って使える代替手段です。
この構造は実務にそのまま影響します。要件を1つでも落とすと、書面契約の義務を果たしていない状態になります。電子契約サービスを契約しただけでは足りない理由はここにあります。
根拠となる条文の読む順序
確認は次の順で行うと迷いません。
- 建設業法第19条第3項で、電磁的措置が認められているかを確認する
- 建設業法施行令第5条の5第1項で、相手方の承諾の取り方を決める
- 建設業法施行規則第13条の2で、技術的基準を満たす方式を選ぶ
技術的基準は見読性、原本性、本人性の3項目です(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。それぞれの中身は後述します。
加えて、国土交通省の「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」が2025年9月30日施行の内容に改められています。平成13年に策定された旧ガイドラインは廃止されました(出典: 国土交通省「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」)。
社内手順や過去の資料が旧ガイドラインを前提にしている場合は、見直しが必要です。
相手方の承諾はどう取る?示すべき2つの事項
建設業法施行令第5条の5第1項により、事前の承諾が必要です。その際に示すのは、用いる電磁的措置の種類と、ファイルへの記録方式の2つです(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
この2つを示さずに得た承諾は、要件を満たしません。「電子契約でお願いします」という口頭の了解だけでは足りません。
承諾の手続を定める施行規則第13条の3と第13条の4
承諾に関する手続は、建設業法施行規則の第13条の3と第13条の4が定めています(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
実務では、次の3点を決めておけば足ります。
- 承諾を書面で取るか、電子的に取るかを決める(所要時間の目安: 30分)
- 示す内容の雛形を1つ作る。措置の種類と記録方式を書いた1枚で足ります(所要時間の目安: 1時間)
- 承諾を受けた記録の保存場所を決める(所要時間の目安: 30分)
雛形は、電子契約サービスの提供元が用意している場合があります。自社で作る前に確認してください。
つまずきやすい点: 承諾を取引ごとに取り出せる形で残していない
最も多いのは、承諾の記録が後から探せない状態です。サービスを導入した時点で一括して案内し、個別の承諾を記録していないケースが見られます。
後から問題になるのは、特定の1件について「この契約で承諾を得ていたか」を示す必要が生じたときです。全体への案内文だけでは、相手がいつ承諾したかを示せません。
ですから、相手方ごと、できれば取引ごとに、承諾の日時と相手の担当者名を残せる形にしてください。電子契約サービスの機能で足りる場合もありますが、サービス側が承諾の記録を持たない設計のこともあります。
協力会社が電子契約に対応できない場合は、その相手だけ書面のままにする運用で構いません。承諾は相手ごとに取るものですので、一部が紙でも問題は生じません。
技術的基準の3つとは?見読性・原本性・本人性
建設業法施行規則第13条の2が、見読性、原本性、本人性の3つを技術的基準として定めています(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
この3つを満たさない方式では、電子契約として成立しません。1つでも欠けると、書面契約の義務を果たしていない状態になります。
3つの内容を整理すると次のとおりです。
| 基準 | 求められること | 確認する対象 |
|---|---|---|
| 見読性 | ファイルへの記録を出力して書面を作成できること | 契約書をPDFなどで出力し、印刷できるか |
| 原本性 | 改ざんを検知できること | 電子署名やタイムスタンプが付くか |
| 本人性 | 契約した当事者を確認できること | 署名の型と認証の方式 |
見読性: 出力して書面を作成できること
見読性は、ファイルへの記録を出力することにより書面を作成できることを指します(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
通常の電子契約サービスであれば満たします。注意が必要なのは、サービスの契約を終えた後です。解約後にファイルを取り出せない設計だと、保存期間の途中で見読性が失われます。
原本性: 電子署名やタイムスタンプで改ざんを検知できること
原本性は、公開鍵暗号方式による電子署名、タイムスタンプ、またはこれらと同等の効力を有する方法によって確保します(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
ここで問われるのは、改ざんされていないことを後から示せるかどうかです。PDFをメールで送るだけの運用では、この基準を満たしません。
本人性: 署名の型によって求められる認証が変わること
本人性については、署名の型で求められる水準が変わります。当事者署名型は電子証明書と1要素認証、事業者署名型は2要素認証という整理が示されています(出典: 建設業の電子契約の要件に関する解説)。
つまり、事業者署名型のサービスを選ぶ場合は、2要素認証が使える設定になっているかを確認する必要があります。設定を省いたまま運用を始めると、基準を満たさないまま契約を重ねることになります。
どちらの型を選ぶかの判断は、次の見出しで扱います。
電子契約サービスはどう選ぶ?確認の手順
当事者署名型と事業者署名型のどちらかで、求められる認証の強さが変わります。自社の契約相手と件数から型を決め、技術的基準の3つを満たすかを順に確認します。
製品を比較してから要件を確認する順序では、やり直しが発生します。要件を先に決めてください。
手順1から手順5までの確認項目
- 契約相手の範囲を決める(所要時間の目安: 1時間)。元請だけか、協力会社も含めるかで必要な機能が変わります。
- 署名の型を決める(つまずきやすい点: 協力会社に電子証明書の取得を求めると、導入が止まります)。相手の負担が小さいのは事業者署名型です。
- 技術的基準の3つを満たすかを確認する(所要時間の目安: 2時間)。見読性は解約後の取り出し、原本性は電子署名の方式、本人性は認証の設定を見ます。
- 承諾の記録が残る仕組みかを確認する(所要時間の目安: 1時間)。相手ごと、取引ごとに日時が残るかを見ます。
- 保存先と保存期間を決める(所要時間の目安: 1時間)。サービス内に置くか、自社側にも控えを置くかを決めます。
手順2は後から変えにくい項目です。協力会社を含める計画があるなら、最初から相手の負担を考えて選んでください。
実装者としての注意点: 既存の工事管理システムとの連携でつまずく箇所
既に工事管理や原価管理のシステムを使っている場合、連携でつまずく箇所は決まっています。
1つは、契約書と工事の紐づけです。電子契約サービス側は契約書を文書として管理します。工事番号や現場名で引き当てる仕組みがないと、後から特定の工事の契約書を探せません。
もう1つは、契約金額の二重入力です。電子契約サービスに金額を入力し、工事管理システムにも同じ金額を入力する運用になりがちです。変更契約が入ると、どちらが正しいかが分からなくなります。
この2点は、発注の段階で連携の方式を決めておけば避けられます。具体的には、工事番号を契約書のメタ情報として持たせるか、工事管理システム側から契約書のIDを参照する形にします。後から直すと、過去分の紐づけ作業が発生します。