何から決める?予約とWeb問診の外注で最初に固めること
最初に決めるのは、予約と問診のどこまでをWebに移すかの線引きです。電子カルテ連携はその後に決めます。
連携から考え始めると、話が止まります。カルテのベンダに連携の可否を聞き、できないと分かった時点で計画が白紙に戻るためです。先に決めるのは御社の運用です。
移す範囲を3つに分ける
受付の業務を3つに分けて、それぞれの移す範囲を決めてください。
- 予約の受付 (所要時間の目安: 決めるのに院内で1時間)
- 問診の記入
- 問診内容の電子カルテへの入力
3番目が最も重く、連携の可否に左右されます。1番と2番は、連携できなくても単独で移せます。
つまずきやすい点は、3番を前提に1番と2番を設計してしまうことです。連携ができなかった場合に、全体が使えなくなります。1番と2番だけで業務が軽くなる形を先に作ってください。
| 範囲 | Webに移す効果 |
|---|---|
| 予約の受付 | 電話の応対が減り、受付の手が空く |
| 問診の記入 | 待合室での記入が減り、診療前の待ち時間が短くなる |
| カルテへの入力 | 受付の転記作業がなくなる |
紙を残す場合の運用
全ての患者がWebで回答するわけではありません。紙の問診票は残る前提で設計してください。
決めておく項目は3つです。
- 紙で回答した患者の内容を、誰がシステムに入れるのか、または入れないのか
- Webと紙の両方に記録が分かれた場合、どちらを正とするのか
- 受付でWebの回答を呼び出す手順
2番を決めていないと、同じ患者の情報が2か所に残り、どちらも信用できなくなります。「Webの回答がある場合はそれを正とし、紙は破棄する」のように、単純な規則にしてください。
実装者視点で言うと、紙とWebの併存そのものは問題ありません。問題になるのは、正をどちらにするか決めていない運用です。
予約システムの要件は何を決める?
診療科と枠の単位、同時に受けられる人数、当日キャンセルの扱いの3点を決めます。この3点で、システムの作りがほぼ決まります。
逆に、ここを決めずに「予約システムが欲しい」と伝えると、各社から別の前提の提案が来ます。比較ができません。
枠の作り方
枠の単位を先に決めてください。決め方は次の順番です。
- 1枠の長さを決める (例: 15分、30分) (所要時間の目安: 院内で30分)
- 1枠に入れる人数を決める (1人なのか、時間帯予約として複数人なのか)
- 診療科や医師ごとに枠を分けるかを決める
- 初診と再診で枠を分けるかを決める
つまずきやすい点は2番です。時間帯予約にすると枠の管理は楽になりますが、待ち時間は短くなりません。1枠1人にすると待ち時間は読めますが、遅れが後ろに積み上がります。
御社の診療の実態に合わせて選んでください。実際の診察時間のばらつきが大きい場合、1枠1人の運用は崩れます。
| 方式 | 向いている場合 |
|---|---|
| 1枠1人 | 診察時間が読める、検査や処置の予約 |
| 時間帯予約 | 診察時間のばらつきが大きい一般外来 |
| 当日順番受付 | 予約を取らず、来院順で診る運用 |
3番目の当日順番受付も要件として挙げておいてください。予約と併用する診療所では、両方の作りが必要になります。
キャンセルと変更の扱い
キャンセルの規則を決めていないと、空いた枠が埋まりません。決める項目は4つです。
- 患者自身が変更やキャンセルをできる期限
- 期限後の連絡方法 (電話のみにするか)
- 無断キャンセルの記録を残すか
- キャンセルで空いた枠を、他の患者に開放する仕組みを入れるか
4番は後から足すと作りが大きく変わります。入れるかどうかを最初に決めてください。
リマインドの通知も同時に決めます。前日に通知を送るか、送る手段はメールかSMSかLINEかで、費用と実装が変わります。SMSは1通ごとに費用がかかるため、月の通数の見込みを出しておくと見積もりが具体的になります。
Web問診の要件は何を決める?
問診の項目と、回答を電子カルテへ渡す形式を決めます。形式を決めずに作ると、受付で転記が残ります。
せっかくWebで回答を集めても、受付の担当者が画面を見ながらカルテに打ち直す形になれば、作業は減りません。渡し方を先に決めてください。
問診項目の決め方
いまお使いの紙の問診票から始めます。手順は次のとおりです。
- 紙の問診票の項目をすべて書き出す (所要時間の目安: 1時間)
- 診療に必ず使う項目と、念のため聞いている項目に分ける
- 念のための項目を削り、Webの入力を短くする
- 診療科ごとに追加で聞く項目を決める
- 自由記述を残す項目を1つか2つに絞る
つまずきやすい点は5番です。自由記述が多いと、患者の入力が止まります。選択式にできる項目は選択式にしてください。
分岐も決めておきます。たとえば「はい」と答えた場合だけ追加で聞く形にすると、全員に長い問診を見せる必要がなくなります。分岐の数が増えると実装の工数も増えるため、重要なものから3つ程度に絞ると現実的です。
電子カルテへ渡す形式
渡し方は3つに分かれます。御社のカルテのベンダに、どれが可能かを確認してください。
| 渡し方 | 必要な条件 |
|---|---|
| カルテのAPIや取込機能で直接連携 | カルテ側に連携の窓口があること |
| CSV等のファイルで取込 | カルテ側に取込機能と形式の仕様があること |
| 貼り付け用の整形テキストやPDFを出力 | 条件なし (受付が貼り付ける、または印刷する) |
上から順に手間が少なく、下に行くほど確実に実現できます。発注時に確認するのは、カルテのベンダが連携の仕様を公開しているかどうかです。
実装者視点で言うと、ここは発注前にカルテのベンダへ問い合わせてもらうのが最短です。制作会社から問い合わせても、契約関係がないため回答が得られないことがあります。
確認する内容は3点です。連携の窓口があるか、取込できるファイルの形式は何か、連携に追加費用がかかるか。この3点の回答があれば、要件が確定します。
連携ができない場合でも、整形テキストの出力までは必ず作れます。転記はゼロになりませんが、読み取って入力する手間は貼り付けに変わります。
問診の個人情報は要件にどう反映する?
個人情報保護法の安全管理措置と委託先の監督を、具体的な要件に落とします。問診内容は、慎重な扱いが求められる情報を含みます。
ここで大事なのは、システム化が新しい義務を生むわけではないという点です。紙の問診票でも同じ義務がかかっています。システム化は、すでに求められている措置を説明できる形に整える作業です。
条文から要件に落とす
条文と、そこから決める要件を並べます。
| 条文 | 定めている内容 | 要件に落とすもの |
|---|---|---|
| 第23条 | 個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じること | 通信と保存の暗号化、バックアップの方法 |
| 第24条 | 従業者に取り扱わせる場合の必要かつ適切な監督 | 誰がどの問診を見られるかの権限設計、操作の記録 |
| 第25条 | 取扱いを委託する場合の委託先に対する必要かつ適切な監督 | 開発や保守の事業者が本番データに触れる範囲、触れる場合の手順 |
| 第26条 | 漏えい等が生じたときの個人情報保護委員会への報告と、本人への通知 | 誰の情報がいつ誰に閲覧されたかを後から示せる記録 |
出典: e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」。個人情報保護委員会は、講ずべき安全管理措置の内容をガイドライン (通則編) で示しています。
第26条が要件に効く理由は、報告と通知の範囲を特定する必要があるためです。どの患者の情報が、いつ、誰に閲覧されたかを示せない状態では、範囲が決まりません。記録の残し方は要件定義の段階で決めてください。
契約に書く項目
外注する場合、第25条の監督を契約と運用の両方で決めます。書き出す項目は4つです。
- 開発と保守の事業者が、本番の問診データに触れるのか触れないのか
- 触れる場合、誰が触れるのか (再委託先を含む) と、その手順
- テストに使うデータを、本番のコピーにするのか作ったものにするのか
- 契約終了時に、事業者側に残るデータをどう消すのか
3番は見落とされやすい項目です。本番のコピーをテストに使う形は、触れる範囲が広がります。作ったデータで足りるかを、発注時に確認してください。
なお、東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」では、外部リソースを活用していない企業が40.0%でした。出典: 同調査 (2024年10月15日から11月15日実施、主に東京23区内の中小企業10,000社を対象、回答1,218社、回答率12.2%)。外注する時点で、この監督の論点が加わります。
契約条項の書き方そのものは、当社の「システム外注の個人情報|委託先監督と契約の書き方」で解説しています。